フリーランスになると、契約書に署名する場面が多くなるでしょう。また、契約書を自分で作成する機会も増えるかもしれません。しかし、どのように作成するのか、どんな内容を盛り込むのか分からず不安を抱く方も多くいると思います。
本記事では、フリーランスの方が契約書を作成する際のポイントを解説します。よく扱う契約書の種類や、作成上の注意点なども解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 契約書を作成する際は、種類や記載事項だけでなく、言い回しにも十分注意しよう!
- 内容によっては課税文書に該当して、収入印紙が必要な場合もあるよ
- 署名をするときは、不利な内容がないか、事前情報と違う内容がないかをよく確認しよう!
目次
フリーランスが契約書を作成する意味
フリーランスが契約書を作成する意味として「証拠を残せる」「合意内容の確認ができる」といった点があげられます。取引についての内容をお互いに確認したうえで、納得して契約するために、とても重要なのです。
またトラブルが起きた際には、解決に向けた話し合いにおいて、契約書は重要な証拠となります。お互いに認識のズレなく契約同意をして、トラブルがあってもスムーズに解決できるようにするために、契約書を作成するのはとても大切です。
取引が存在した証拠を示せる
契約書を作成すれば、取引が本当にあったと証明できます。契約書がないと、取引があったかを証明できないため、トラブルがあっても対応できません。
例えば、報酬の未払いがあった場合、契約書があれば「どんな取引があって、報酬をいくらもらう予定だったのか」が分かります。しかし、契約書がないと取引の有無が証明できないため「そもそもそんな取引はなかった」と逃げられる可能性があるのです。
取引があったという証拠を残すために、契約書は作成しておきましょう。
契約の内容を確認できる
どんな契約内容だったかを証明できるのも、契約書を作成する意味といえます。フリーランスでよくあるトラブルとして「報酬の金額が違う」「予定日に振り込まれない」などがあるでしょう。
契約書を作成しておけば「いくらの報酬を、いつまでに振り込んでもらう約束だったか」を証明できます。また、契約内容をお互いに確認したうえで、契約に進めるのもメリットです。
契約書の作成が義務となっているケース
契約内容によっては、契約書の作成が義務となっている場合もあります。フリーランスでよくある事例は、以下のとおりです。
- 建設工事請負契約(建設業法第19条)
- フリーランスへの業務委託(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 第3条)
上記のような契約を結ぶ場合、契約書の作成は義務となっています。契約書を作成していなかった場合、取引先にペナルティが課される可能性があるので注意しましょう。
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フリーランスが扱う契約書の種類
フリーランスが扱う契約書には、さまざまな種類があります。特によく扱うのは、以下9種類です。
- 売買契約書
- 秘密保持契約書
- 請負契約書
- 委任契約書
- 賃貸借契約書
- 労働者派遣契約書
- 保証契約書
- ライセンス契約書
それでは上記9種類について、どのような契約書なのかを詳しく解説します。
売買契約書|商品・サービスの売買に関する契約
売買契約書は、商品やサービスの売買契約をする際に作成する契約書です。「物品売買」「不動産売買」「債権・株式譲渡」「知的財産権の譲渡」など、さまざまな種類があります。
売買契約書には、商品や代金のほかに、代金未払いや不良品といったトラブル時の対応についても記載しておきましょう。
秘密保持契約書|機密情報に関する契約
秘密保持契約書とは、業務上知りえた秘密に関して、定められた用途以外の利用や、故意の漏洩を禁止する契約書です。契約書には、秘密情報の内容や開示範囲、開示期間、用途などを記載します。
秘密を開示する前に作成・締結し、情報の悪用を防ぐのが主な役割です。
請負契約書|業務完了をもって報酬を受け取る契約
請負契約書とは、依頼業務の完了をもって報酬を受け取るという契約です。業務を進めただけではなく、成果物の納品や目標達成などをもって報酬を受け取れます。
請負契約では、成果物に不備があった場合に修正や賠償をする「担保責任」を問われます。こうした責任が生じるため、請負契約では、生活物の内容や納品方法などに関して詳細に記載しておくことが重要です。
委任契約書|業務遂行に対して報酬を受け取る契約
委任契約書とは、業務遂行に対して報酬を受け取るという契約です。請負契約は「成果物の納品」が報酬支払い条件だったのに対して、委任契約は「業務の遂行」が条件という点が異なります。
委任契約では、どのような業務を行うのか、そのプロセスについて詳細に記載するのがポイントです。
賃貸借契約書|マンション・店舗物件の貸し借りの契約
賃貸契約書は、マンションや店舗物件などの貸し借りに関する契約書です。一人暮らしをしている方や、店舗物件を取得した経験のある方なら見たことがあるでしょう。
契約を結ぶと、賃料支払いの義務が生じます。また貸主も、物件を使用させる義務であったり、修繕に関する義務が生じる契約です。
労働者派遣契約書|取引先に労働者を派遣する契約
労働者派遣契約書とは、取引先に労働者を派遣する際に作成する文書です。相手に「労働者を派遣します」と約束するために契約を結びます。
派遣業務の内容、派遣人数、紛争解決に関する事項などを記載するのが一般的です。2021年1月より、電子契約も可能となりました。
保証契約書|金銭支払いの保証に関する契約
保証契約は、債務支払いが履行されなかった場合に、保証人が代わりに支払い義務を負うという契約です。不動産の賃貸借や借金などにおいて、必要になります。なお2020年の民法改正により、以下の点が変更となりました。
- 個人根保証契約に関して、極度額の決まりが無ければ無効に
- 特別事情があれば、個人根保証契約は打ち切りに
- 事業用融資の場合、公証人による意思確認が必要に
- 保証人へ、契約締結・期限の利益喪失・履行上に関する情報提供が必要に
- 連帯保証人へ請求しても、主債務者の時効完成は猶予されないことに
これまで保証契約書を作成したことのある方も、上記の変更点を確認したうえで、新規の契約をしましょう。
ライセンス契約書|知的財産の利用に関する契約
ライセンス契約書とは、特許権・商標権・著作権など知的財産(以下:知財)を利用する際に作成する文書です。使用料の受け取りや、知財利用の用途・範囲などに関して、記載します。
ライセンス契約には、キャラクターライセンス・ソフトウェアライセンス・フランチャイズなどさまざまな種類があります。内容に応じて、適切な契約を結びましょう。
フリーランスの契約書の作成方法
フリーランスが契約書を作成する場合は、作成方法や記載内容など、迷うポイントが多くあるでしょう。以下では、フリーランスが契約書を作成する際の「作成方法」「流れ」「記載内容」について解説しますので、参考にしてください。
作成方法ごとの違い
契約書の作成方法には、以下の種類があります。
- 書面
- 電子
- 公正証書
書面と電子に関しては、記載内容は特に変わりません。電子だとやり取りがスムーズで、保管・管理・印紙税コストも削減できます。ただし、以下の文書は書面での契約書が必要です。
- 事業用定期借地契約
- 任意後見契約
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約
- 特定商取引の契約
公正証書は、公証人が作成する文書です。本人同士、もしくは委任状をもった代理人によって作成するため、証拠力が非常に高いとされています。
作成の流れ
フリーランスが契約書を作成する際の、主な流れは以下のとおりです。
- 作成
- 内容の確認
- 署名・押印
- 控えの作成
- 必要に応じて収入印紙の貼り付け
書面で作成する場合は、印刷・製本をして、双方で内容を確認し、署名・押印します。電子の場合は、作成後に専用のツールやメールなどで取引先に共有し、電子署名をしてもらいましょう。
控えを作成する場合は「割印」をします。割印とは、2枚の書面を重ねて、印鑑が半分ずつになるよう押印することです。割印をすることで、その場で作成された正規の控えと証明できます。
記載すべき内容
契約書に記載すべき内容は、種類によって異なります。一般的には、以下の内容は最低限必要となりますので、契約書に盛り込みましょう。
- タイトル:「〇〇契約書」など
- 前文:当事者、日付、契約者名など
- 契約条項:ビジネスおよび法律上の条件
- 後文:契約の締結、および文書保管に関する事項
- 日付、署名、押印欄
上記のほかに、守秘義務や契約解除、反社会的勢力の排除などに関する内容を盛り込むこともあります。
フリーランスが契約書を作成する際の注意点
フリーランスが契約書を作成する際には、以下の点に注意しましょう。
- 原本と写しの作成・保管方法
- 課税文書には収入印紙を貼る
- 曖昧な言い回しや数字はNG
- 法定記載事項を確認する
- 必ず内容を確認する
以下では、作成時の注意点について詳しく解説します。
原本と写しの作成・保管方法
契約書を作成した場合、原本とは別に「謄本」や「写し」などを作成することもあります。それぞれどのようなものかを知ったうえで、適切に保管するのが重要です。
- 原本:署名・捺印が直接されている、最初に作成したもの
- 謄本:原本の内容をすべて写したもの
- 正本:交渉権限のある人が法令に基づいて作成した謄本
- 抄本(しょうほん):原本の一部を写したもの
- 副本:正本と同一内容の控え
- 写し:原本のコピーだが、謄本のように認証はない
上記のうち、民事訴訟で法的効力が認められるのは「原本」と「正本」です。
個人事業主の場合、契約書類は5年間の保管が義務付けられています。期間を過ぎる前に破棄しないよう注意しましょう。
課税文書には収入印紙を貼る
契約書が課税文書に該当する場合は、収入印紙を貼りましょう。収入印紙とは、印紙税を納めたことを証明するための証書です。秘密保持契約書(NDA)や不動産売買契約書は課税文書に該当するため、収入印紙を貼り付ける必要があります。
また、正本・認証のある謄本・副本・写しなども課税文書に該当するため、収入印紙が必要です。
曖昧な言い回しや数字はNG
契約書に曖昧な言い回しがあると、トラブルに繋がります。契約書は、契約内容について相互に確認する書類です。日付・金額・業務内容・成果物概要など、必要な事項を漏れなく正確に記載するよう心がけましょう。
よくあるのは「等の」「相当の」「〜と見込まれる」「十分である」といった表現です。範囲や達成目標などが明確でないと、認識のズレが生じてトラブルになります。
また、トラブル発生時にも、どちらが正しい意見なのか判断が難しくなるでしょう。無用な争いを避けて気持ちよく取引をするためにも、曖昧な表現は絶対に避けてください。
法定記載事項を確認する
契約書の種類によっては、記載すべき内容が法律で定められている場合もあります。例えば、フリーランスへの業務委託に関する契約書では、以下の事項に関する記載が必須です。
- 特定受託事業者の給付の内容
- 報酬額
- 支払期日
- その他、受託者・業務委託開始日・給付提供場所、給付期日等の事項
法定記載事項について正しく理解し、漏れなく盛り込むようにしましょう。
なお、フリーランスの業務委託契約に関して定められた「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護新法)」については、以下の記事を参考にしてください。
必ず内容を確認する
契約書を作成したら、署名する前に必ず内容の確認をしましょう。可能な限り読み合わせをして、契約事項に関する認識の相違がないかをチェックしておくのがおすすめです。
読み合わせをしていないと、契約締結後に「契約前と話が違う」「金額が最初に聞いた金額とは違う」とトラブルになってしまう可能性があります。電子契約であっても、オンラインミーティングツールを利用するなどして、認識違いがないかくまなく確認してください。
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契約書の作成に関するよくある質問
フリーランスが契約書を作成する際によくある質問をまとめました。
- 契約書はどっちが作成する?
- 覚書と契約書はどう違う?
- 契約書の作成に印鑑は必要?
- 契約書の作成は義務化されている?
- 契約書なしでも問題ないケースは?
- 厚生労働省の契約書テンプレートを使っても良い?
- 契約書にサインするときの注意点は?
上記のよくある質問に関して、回答していきます。
契約書はどちらが作成する?
契約書は、契約に関わる人であれば、どちらが作成しても問題ありません。例えば請負契約書を作成する場合は、依頼主とフリーランスどちらが作成しても良いのです。
ただし契約書は、基本的に作成者側が有利になるよう作成されます。また、内容修正に関しても主導権を握れるのは契約書作成側です。
場合によっては、不当に条件の悪い契約を結ばされるリスクもあります。相手が作成した契約書については、不利な内容がないか、また事前の話と異なる部分がないかをよく確認しましょう。
覚書と契約書はどう違う?
覚書(おぼえがき)と契約書の主な違いは内容です。覚書とは、簡単にいえば契約内容を簡単に記載した書類を指します。契約書とおおまかな内容は変わりませんが、より「メモ」や「補完」といった役割が強くなります。覚書を用いるのは、以下のようなケースです。
- 契約締結後に変更が生じた場合
- 締結済みの契約に関して、詳細の取り決めをする場合
- 契約前に基本合意をしたい場合
適切な内容で作成した場合、契約書と覚書で法的効力は同等です。また内容によっては課税文書に該当し、収入印紙を貼る必要があるので注意しましょう。
契約書の作成に印鑑は必要?
2024年3月現在、契約書の作成において押印は「あっても無くてもよい」と考える傾向にあります。2020年6月に経済産業省が公開した「押印についてのQ&A」にある、契約書の押印に関する文章を見てみましょう。
- 私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
- 特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
- なお、文書に押印があるかないかにかかわらず、民事訴訟において、故意又は重過失により真実に反して文書の成立を争ったときは、過料に処せられる(民訴法第 230 条第1項)。
つまり押印は、本当に本人が作成したかを判断するための材料のひとつであって、必須事項ではないということです。署名がある場合は、押印をしなくても問題ないと言えるでしょう。
ただし署名をしない場合は、本人が作成した証拠として押印をしたほうが良いといえます。
契約書の作成は義務化されている?
契約書の作成は、義務化されている種類と、そうでない種類があります。「事業用定期借地権設定契約」「任意後見契約」「農地の賃貸借契約」「建設工事請負契約」などに関しては、必ず契約書を作成しましょう。
なお、契約書の作成が義務でない場合であっても、できる限り契約書を作成すべきとされています。フリーランスは、会社員と異なりトラブル対応を自分自身で行わなければなりません。また、報酬未払いがあるとダイレクトに自分の収入が減ってしまいます。
トラブルを回避するとともに、問題があった際にスムーズに対応するために、取引前に必ず契約書を作成しましょう。
契約書なしでも問題ないケースは?
契約書の作成が義務でないケースに関しては、書面なしでも問題ありません。例えば、フリーランスへの業務委託や、建設工事の請負契約などは、契約書の作成義務があります。しかし、こうした義務がなければ、書面はなくても良いのです。
しかし、口約束だと「言った・言わない」のトラブルに繋がり、報酬をもらえなくなったり、支払期限を後ろ倒しにされたりするリスクがあります。またトラブルが発生しても、どういった約束だったのか証明ができないため、非常に不利なのです。
そのため、作成義務がないケースであっても、契約書を作成して内容を確認し、お互いに署名するのが慣例となっています。
厚生労働省の契約書テンプレートを使っても良い?
契約書の作成において、厚生労働省のテンプレートを使ってもまったく問題ありません。厚生労働省 東京労働局は『様式集』にて、労働条件や労働派遣事業などに関する契約書のテンプレートを公開しています。
また『在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン』では、在宅ワーカーのための契約書作成に関するポイントが確認できます。あわせて活用しましょう。
契約書にサインするときの注意点は?
契約書にサインをするときには、以下の点に注意しましょう。
- 誤字・脱字がないか
- 曖昧な表現がないか
- 契約内容に関して認識の相違がないか
- 成果物や業務内容などに関する記載は正しいか
- 報酬支払い関係で不利になる文言はないか
- トラブル発生時の対応について明記しているか
なおサインするときは、署名もしくは署名+押印で対応しましょう。署名は必ずフルネームで行い、第三者や印刷でなく自分で署名するようにしてください。
まとめ
契約書を作成する際は、まず「どんな種類の契約をするのか」を確認しましょう。フリーランスの場合は、請負・委任・ライセンスなど、さまざまな契約をします。契約の種類によって、内容や契約方法などが異なるので、まず種類の確認をしてください。
契約書に署名をする際は、曖昧な言い回しがないか、不利な内容になっていないかを細かくチェックしましょう。取引先が作成している場合、認識の相違があったり、企業側にとても有利になっていたりします。
作成時・署名時それぞれのポイントをしっかりと抑えて、トラブルなく取引ができるようにしてください。
- 契約書を作成する際は、種類や記載事項だけでなく、言い回しにも十分注意しよう!
- 内容によっては課税文書に該当して、収入印紙が必要な場合もあるよ
- 署名をするときは、不利な内容がないか、事前情報と違う内容がないかをよく確認しよう!
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