個人事業主の多くは、業務委託で仕事をもらいながら生計を立てているでしょう。ビジネスシーンで多く用いられる業務委託契約ですが、契約書を確認する際は、いくつかの注意点があります。チェックポイントを知らないと、不利な契約を結ばされて、大きなトラブルになる可能性もあるため注意が必要です。
本記事では、業務委託契約を結ぶ際に、個人事業主が注意すべきポイントを解説します。そもそも業務委託契約とは何か、どんな流れで契約するかも解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 業務委託契約は、民法上の「請負契約」「委任契約」「準委任契約」などに該当するよ
- 契約書に署名・捺印する際には、報酬金額や報酬基準、禁止事項、権利の帰属先などをよく確認して、不利な内容になっていないか注意しよう!
- 業務委託契約にはメリットだけでなくデメリットもあるので、自分が仕事に求めていることを洗い出したうえで、最適な働き方を考えよう
業務委託とはどんな契約?
業務委託(アウトソーシング)とは、企業が業務の一部を外部に委託する契約です。正社員・アルバイト・パートといった雇用契約とは異なり、委託する側(企業側)と受託側に主従関係がありません。対等な関係だからこそ、自由な交渉が可能なのが主な魅力となっています。
業務委託契約の種類
民法では「業務委託契約」という分類がありません。現在の業務委託契約は、民法上の以下の契約の総称となっています。
契約の種類 | 請負契約 | 委任契約準委任契約 |
概要 | 業務完遂完成 | 委託業務の遂行 |
報酬基準 | 成果物の納品 | 委任業務の履行または成果物の納品 |
以下で各契約の特徴を解説します。これから業務委託で働きたい方は、自分の働き方がどんな契約に該当するのか、確認してみましょう。
請負契約(民法 第632条)
請負契約とは、成果物の納品をもって報酬が発生する契約です。成果物の納品ができなければ、契約不履行となるため、原則として報酬が発生しません。
アプリ開発やWebサイト制作など、成果物の納品が必要な場合には請負契約を結びます。受託側は成果物を納品し、必要に応じて修正する義務が生じるのが、請負契約です。
委任契約(民法 第643条)
委任契約とは、法律行為を委託する契約のことです。後述する準委任契約とは異なり、委任契約は税務・弁護・司法などの法律行為の委託が対象となります。
また請負契約とは異なり、業務遂行が報酬発生の条件です。成果物の納品は必要なく、業務を履行すれば報酬が発生します。
ただし、ただ業務を履行すれば良いという訳ではありません。委任契約および準委任契約の受託者は「善管注意義務」を負います。善管注意義務とは、社会通念上あたりまえと考えられる程度の注意を払い、業務を履行しなければならないのです。
準委任契約(民法 第656条)
履行割合型 | 成果完成型 | |
概要 | 委託業務の遂行 | 成果物の納品 |
準委任契約とは、法律行為以外の行為を履行することで報酬を得る契約です。請負契約のように、成果物の納品は必須事項ではありません。エンジニアの客先常駐案件、コンサルティング、受付業務、事務処理などさまざまな場面で準委任契約は用いられています。
2020年の民法改正により、準委任契約は「履行割合型(従来型)」と「成果完成型」の2種類に分類されるようになりました。履行割合型は、従来どおり委託業務の履行が報酬発生の条件です。一方、成果完成型は原則として成果物の納品が報酬発生の条件となっています。
請負契約と、準委任契約(成果完成型)の違いは?
請負契約と準委任契約の成果完成型が同じではないかと感じた方もいるでしょう。請負契約と準委任契約(成果完成型)の主な違いは、条件変更時の対応と、報酬支払いの条件です。
請負契約の場合、成果物の納品ができなければ報酬は発生しません。しかし、準委任契約(成果完成型)は、成果物の納品はあくまで善管注意義務の範疇であり、絶対条件ではないのです。
また、成果物の仕様や条件が変更になった場合、請負契約だと再契約が必要になります。しかし、準委任契約(成果完成型)は成果物に関して柔軟に対応できるため、再契約は不要です。
こうした報酬支払い条件および条件変更時の対応が、請負契約と準委任契約(成果完成型)の主な違いです。
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契約書確認時の注意点とチェックポイント
業務委託契約を結ぶ場合、契約書作成前や署名時にいくつかのチェックポイントがあります。具体的には、以下の項目です。
- 報酬の基準や発生ポイント
- 禁止事項
- 成果物や知的財産の権利
- 損害賠償やトラブル対応
- 秘密保持の内容
それでは、各チェックポイントについて詳しく解説します。
報酬の基準や発生ポイント
まずは報酬の基準および報酬発生のポイントを確認しましょう。業務委託の場合は、成果物の納品が報酬発生の基準になっている場合もあれば、業務工数や時間などが報酬の基準となっているケースもあります。
また、請負契約なら成果物の納品が報酬発生のポイントで、委任契約なら業務履行が報酬発生のポイントです。提示された金額が成果物1つに対してなのか、1時間単位なのか、またどのタイミングで報酬が発生するのかをよく確認してください。
禁止事項
業務委託契約書には、禁止事項の記載があります。主な禁止事項は競合他社における類似業務の禁止です。競合他社との契約に制限を設ける契約の場合、自分自身の業務に支障が出る恐れがあるので、慎重に検討してください。
また業務内容に関しても、いくつかの禁止事項を設けている場合があります。デザインやライティングならAIツールの禁止、営業代行なら解約を前提とした契約の禁止などです。思いがけず禁止事項に抵触することがないように、事前に細かく確認しましょう。
成果物や知的財産の権利
成果物の納品が必須の契約だった場合は、成果物や知的財産に関する権利をどちらが持つのかも、必ず確認しましょう。
委託側(企業側)に権利が帰属する場合、受託者は納品した成果物を今後の業務に活用することはできません。また、ポートフォリオとして活用するのも難しいケースが多くなります。
契約内容によっては、納品物がどれだけの成果をあげても受託側に一切メリットがない場合があります。特に音楽やデザインの分野に関しては、権利の帰属先や取り扱いをよく協議してください。
損害賠償やトラブル対応
業務委託においてトラブルが発生した場合、どのように解決するのか、また損害賠償はどうなるかも注意しましょう。裁判になった場合でも、委託者が被った損害のうち、どこまでを受託者が賠償すべきなのか、その範囲が争点になるケースが非常に多くあります。
ただし、損害賠償は基本的に契約不履行や違反があった場合に発生するものです。しっかりと委託業務を履行し、成果物を納品する意思があるのであれば、過度に心配をする必要はありません。
秘密保持の内容
業務委託において、企業秘密情報を受け取る場合には、秘密保持に関する契約も結びます。いわゆるNDAと呼ばれるものです。
特に多いのは、顧客情報に関する秘密保持契約です。顧客名簿を売却してしまったり、セキュリティ対策不足によって情報が漏洩したりと、顧客情報漏洩での裁判事例は多くあります。
秘密保持契約を結び、情報漏洩対策を徹底するとともに、業務上知り得た情報を不正に利用しないのは、業務委託契約において非常に重要です。
業務委託契約を結ぶ流れ
業務委託契約を結ぶ基本的な流れは、以下のとおりです。
- 契約内容の確認
- 契約書の作成
- 契約書内容の読み合わせ
- 署名・捺印
- 契約書の保管
- 業務スタート
これから業務委託契約を結ぶ場合は、以下の内容を参考にしながら、契約作業を進めてください。
契約内容の確認
契約書作成の前に、契約内容の確認を行います。委託業務の内容や報酬金額、報酬支払いの条件、知的財産権の帰属先、禁止事項について事前に確認するのが基本です。
契約書作成の前段階でしっかりと確認していないと、契約書が完成してから認識の相違が発覚し、契約書の作成し直しが発生するかもしれません。スムーズに契約を進められるよう、書類作成前からしっかりと内容を確認しましょう。
契約書の作成
契約内容の確認ができたら、契約書を作成します。なお、契約書を作成するのは委託側(企業側)です。収入印紙に関しても、作成者側が費用を負担して貼り付けるのが原則となっています。※
2024年秋頃からはフリーランス保護新法の施行が予定されており、契約書作成は義務化されることとなっています。口約束にせず、必ず契約書を作成して署名・捺印し、保管しておきましょう。
※収入印紙は、請負契約および継続的契約の場合のみ必要です。
契約書内容の読み合わせ
契約書が完成したら、内容の読み合わせをしましょう。以前は対面やオンラインミーティングで読み合わせをするケースが多くありましたが、昨今はメールで契約書を送付し、自分自身で確認するだけといったケースが多くなっています。
内容を確認する際は、前述したチェックポイントを参考にして、隅々まで細かく確認しましょう。ちょっとの見落としが、大きなトラブルになる可能性があります。小さな部分でも、不安点や疑問点があればしっかりと確認してください。
署名・捺印
契約書の内容に問題がなければ、署名・捺印をしましょう。屋号がある場合「(屋号)こと(本名)」というかたちで、本名と屋号どちらも記入します。なお、電子署名・捺印でも法律上は問題ありません。
契約書の保管
契約書を作成し、双方が署名・捺印したら、原本や写しを保管しておきます。青色確定申告なら、契約書類は5年以上の保管が必要です。トラブル時の対応でも重要な書類となりますので、取引年ごとにや顧客ごとに大切に保管しましょう。
業務スタート
契約書に署名・捺印をしたら、いよいよ業務委託がスタートします。委託業務を履行する際は、禁止事項をよく確認したうえで、契約に沿って業務を履行しましょう。
また、秘密保持契約に基づいて情報漏洩対策に努めるのも重要です。顧客情報や企業秘情報を漏洩させてしまった場合、多額の損害賠償責任を負う可能性があります。
業務委託契約のメリット
業務委託契約を結ぶ場合、以下のようなメリットがあります。
- 単価を交渉できる
- 勤務時間や場所の縛りが少ない
- 報酬発生の条件が成果が見えやすい
- お互いの立場が対等
メリットを把握したうえで、本当に自分に合った働き方なのかを判断していきましょう。
単価を交渉できる
業務委託契約においては、委託者と受託者は対等です。上下関係がなく、単価の交渉も自由にできます。交渉の仕方によっては、大幅な収入アップも期待できるでしょう。
ただし、単価を交渉するためには、企業側に「これだけの報酬を払ってでも依頼したい」と思わせるだけのスキルや実績が必要になります。単に交渉スキルを磨くのではなく、高単価な依頼をもらえるくらいに、自分自身のレベルを高めるのが重要です。
勤務時間や場所の縛りが少ない
勤務時間や場所の縛りが少ないのも、業務委託で働くメリットです。雇用契約だと、会社への出勤が必要だったり、勤務時間の縛りがあったりします。しかし、業務委託は委託業務を履行すれば良いので、時間や場所の拘束が少ないのです。
ただし、事務処理代行やエンジニアの客先常駐案件など、勤務時間や場所の縛りがあるケースも少なくありません。事務・経理・IT系などの職種で業務委託契約を結ぶ場合は、事前に勤務形態を確認しましょう。
仕事の成果が見えやすい
業務委託契約は「〇時間仕事をしたら〇円」「これを納品したら〇円」と、仕事の成果がとても分かりやすい契約です。仕事をしたぶんだけ報酬が入るので、モチベーションを高めやすい働き方と言えます。
会社員の場合、固定給だとどうしても成果が見えにくく、長く勤めるほどモチベーションが低下してしまうケースが多くあります。成果の見えるかたちで、どんどん働きたいという方には、業務委託はとても適した働き方です。
お互いの立場が対等
委託側と受託側が対等なので、ストレスが少なく仕事ができるのも、業務委託のメリットです。雇用関係だと主従関係があるので、報酬金額や働き方、業務内容について労働者側が交渉するのは難しくなっています。
しかし、業務委託は主従関係がなく対等なので、業務内容や報酬金額などを自由に交渉できるのです。働くうえで、自分に裁量権があったほうが良いと考える方にも、業務委託は適した契約でしょう。
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業務委託契約のデメリット
自由度が高い、成果が見やすいといったメリットのある業務委託ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 安定した収入を確保しにくい
- 事務作業が増えやすい
- トラブル対応が大変
以下で業務委託契約のデメリットを解説しますので、メリット・デメリットどちらも把握したうえで、本当に業務委託で働くべきかを検討しましょう。
安定した収入を確保しにくい
業務委託契約のみで働いていると、収入の増減が生じやすくなります。業務委託契約は、雇用契約と比べて解除しやすいのが特徴です。契約解消に関する法的制限がほぼなく、いつでも自由に解消できることになっています。
いままでもらっていた仕事が急になくなったり、更新時に報酬金額が変更されてしまったりと、収入が減る要因がとても多いのが業務委託です。安定した収入を求める場合は、固定給をもらえる雇用契約のほうが良いでしょう。
事務作業が増えやすい
業務委託で働く場合は、税務申告をはじめとした事務作業がとても多くなります。確定申告はもちろん、インボイス対応の申請、消費税の計算、領収書や契約書の管理、請求書の発行など、自分自身で行わなければならない事務作業がとても増えるのです。
会社員であれば、取引先に送る書類を作ることはあっても、あくまで業務の範疇で、給与の発生する行為です。しかし、業務委託で働く個人事業主は、報酬の発生しない事務作業がとても多くなります。
事務作業や計算が苦手な方は、外部委託をするか、会社員としての働き方を選択したほうが良いでしょう。
トラブル対応が大変
個人事業主の場合、トラブルが発生したらすべて自分自身で解決しなければなりません。損害賠償請求があった場合には、自分自身で賠償する必要があります。
会社員なら、トラブルがあっても会社側が責任を負ってくれます。横領や故意の情報漏洩などでない限り、自分自身が全責任を負うことはありません。また、成果物の修正が発生しても、給与の発生する時間で対応できます。
業務委託だと、報酬金額は変わらない状態で、修正作業を行わなければなりません。こうしたトラブル時に、自分が全責任を負って、時には時間単価を削りながら対応しなければならないのも、業務委託のデメリットです。
まとめ
業務委託契約は、雇用契約とは大きく異なる契約です。自由度が高く、また相手と対等な立場で交渉ができる点が大きなメリットとなっています。
一方で、トラブル対応や契約解消などに関しては不利な部分の多い契約です。自分自身で事務作業ができるか、トラブル対応は可能か、契約解消に備えて対策が取れるかなど、様々なリスクヘッジが求められます。
本記事で紹介した契約時のチェックポイントを参考にしながら、適切な内容で業務委託契約を結び、自由な働き方を実現しましょう。
- 業務委託契約は、民法上の「請負契約」「委任契約」「準委任契約」などに該当するよ
- 契約書に署名・捺印する際には、報酬金額や報酬基準、禁止事項、権利の帰属先などをよく確認して、不利な内容になっていないか注意しよう!
- 業務委託契約にはメリットだけでなくデメリットもあるので、自分が仕事に求めていることを洗い出したうえで、最適な働き方を考えよう
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