個人事業主のなかには、事業拡大に伴って、法人化を検討している方もいるでしょう。個人事業と法人では、税制が大きく異なります。そのため、売上や所得がどのくらいになったら法人化すべきか、タイミングに迷う方が少なくありません。
本記事では、個人事業主と法人で、税金がどのように変わるかを解説します。各種税金の税率や、法人化するメリットなど詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
- 個人事業主と法人で大きく変わるのは、所得税・法人税だよ!
- その他の税金や控除、開業手続きも大きく変わるので、法人化の際には専門家に相談するのがおすすめ!
- 法人化すると、赤字でも納税義務が生じたり、手続きが煩雑になったりするので注意しよう
目次
個人事業主と法人の税金の違いは?
個人事業主と法人の違いは、納める税金の種類と、開業方法です。
個人事業主は「所得税」や「個人事業税」などを納めます。開業届を税務署に提出すれば開業することが可能です。一方、法人の場合は「法人税」や「法人事業税」を納めます。開業方法は個人事業主よりも複雑で、定款や登記申請書類を作成しなければなりません。
また法人の場合は、定款用収入印紙代や各種手数料もかかります。無料でも開業できる個人事業主とは、必要資金の面でもまったく異なるのです。
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個人事業主が納める税金
個人事業主が納める税金は、以下の6種類です。
- 所得税
- 個人事業税
- 住民税
- 復興特別所得税
- 消費税
- その他の税金(固定資産税・自動車税)
それでは、個人事業主だけが納める税金について詳しく解説します。
所得税
所得税とは、事業によって生じた所得のうち、一定の割合を税金として納めるものです。売上ではなく、売上から各種控除を差し引いた「所得」から、一定額を納めます。
2024年3月現在の所得税率は、以下の通りです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
個人事業税
個人事業税は、所得税とは別に払う税金です。個人事業を営むためには、各種公共サービスを利用するため、この個人事業税が設けられました。なお、以下の条件を満たす場合は非課税となります。
- 事業所得が290万円以下の方
- 個人事業税の課税対象となる法定業種に当てはまらない方
- 前3年で赤字の繰り越しがあり免税となる方
- 災害等での控除によって免税対象となる方
2024年3月現在、個人事業税の税率は以下のようになっています。
区分 | 税率 | 事業の種類 |
第1種事業 | 5% | 物品販売業、運送取扱業、飲食店業、倉庫業、代理業、広告業、請負業、出版業、写真業、旅館業、運送業、案内業、商品取引業、保険業など |
第2種事業 | 4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
第3種事業① | 5% | 医業、司会業、弁理士業、税理士業、デザイン業、コンサルタント業、クリーニング業、理容業、美容業など |
第3種事業② | 3% | あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業 |
住民税
住民税とは、国民が居住地に納める税金です。主に、生活インフラの維持・発展のために利用されます。住民税は「均等割」と「所得割」に分かれており、それぞれ以下の金額を納める必要があります。
住民税の種類 | 税率・税額 |
均等割 | 4,500円 ※市町村民税3,500円+道府県民税1,500円の合計 |
所得割 | 10% ※市町村民税6%+道府県民税4%の合計 ※指定都市は道府県民税2%+市民税8% |
復興特別所得税
復興特別所得税とは、2011年3月11日に発生した「東日本大震災」の復興に活用するための税金です。2013〜2037年の所得から、一定額を納めます。
- 基準所得税額 × 2.1% = 復興特別所得税額
参考:国税庁『個人の方に係る復興特別所得税のあらまし』
法人が納める税金
法人の場合は、以下の税金を納めることになっています。
- 法人税
- 法人事業税
- 法人住民税
- 特別法人事業税
それでは、個人事業主とは異なる法人の税制度について、詳しく見ていきましょう。
法人税
法人税とは、個人事業主でいう「所得税」にあたるものです。法人の場合は所得税ではなく、この法人税を納めます。法人税は「普通法人」「公益法人」「人格のない社団等」など、法人区部によって税率が異なるのが特徴です。また、適用期間によっても税率が異なるため注意しましょう。
今回は、普通法人における、2022年4月1日以降の法人税率を紹介します。
区分 | 2022年4月1日以降 | ||
1億円以下の法人等 | 年800万円以下の部分 | 下記以外 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | ||
年800万円超の部分 | 23.20% | ||
上記以外の法人 | 23.20% |
法人事業税
法人事業税とは、個人事業税と同様に、事業をするために必要となる行政サービスの利用料として納める税金です。税率は法人区分によって異なります。
今回は、資本金1億超の普通法人、および1億円以下の普通法人(公益法人や投資法人等ふくむ)の税率を紹介するので、参考にしてください。
法人区分 | 課税標準 | 税率 |
資本金1億円超の普通法人 | 付加価値額 | 付加価値割 1.2% |
資本金等の額 | 資本割 0.5% | |
所得 | 所得割 1.0% | |
資本金1億円以下の普通法人、公益法人等、投資法人等 | 所得 | 所得割 所得のうち ・年400万円以下の金額→3.5% ・年400万円を超え、年800万円以下の金額→5.3% ・年800万円を超える金額→7.0% |
法人住民税
法人住民税は、法人運営に必要不可欠な公共サービスを維持するために納める税金です。通常の法人税と同様に「法人税割」と「均等割」に分かれています。まずは、法人税割の税率を見てみましょう。
- 都道府県:法人税額 × 1.0%
- 市区町村:法人税額 × 6.0%
- 合計:法人税額 × 7.0%
※超過税率を設定している場合あり
※市区町村によって割合が異なる場合あり
参考:総務省『法人住民税』
続いて、均等割の金額を紹介します。
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割従業者数50人超 | 市町村民税均等割従業者数50人以下 |
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1千万円超1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
特別法人事業税
特別法人事業税とは、地域ごとの法人課税の偏りを是正するために導入された制度です。2019年10月1日からスタートした法人が課税対象となります。特別法人事業税の税率は、以下のとおりです。
課税標準 | 税率 |
基準法人所得額 | 34.5〜260% |
基準法人収入割額 | 30〜62.5% |
個人事業主と法人どちらも納める税金
上記の税金とは別に、個人事業主と法人どちらも納める税金もあります。
- 消費税
- 固定資産税
- 自動車税
以下の項目で、3種類の税金について詳しく解説するので、参考にしてください。
消費税
消費税とは、商品やサービスなどを購入した際にかかる税金です。購入者自身が納めるのではなく、販売者側が代金に上乗せして徴収し、納税するのが特徴となっています。以下の条件を満たす場合、消費税は免税です。
- 課税期間の課税売上が1,000万円以下
かつ、インボイス登録をしていない
インボイス事業者として登録した場合、売上高に関わらず、自動的に消費税課税事業者となるので注意しましょう。なお、インボイス制度については以下の記事を参考にしてください。
2024年3月現在、消費税率は以下のようになっています。
通常の消費税 | 10% ※消費税7.8%+地方消費税2.2% |
軽減税率対象の場合 | 8% ※消費税6.24%+地方消費税1.76% |
固定資産税
固定資産税とは、土地や物件、機械設備などにかかる税金です。具体的には、以下のような資産が課税対象となっています。
固定資産の種類 | 例 |
土地 | 田んぼ、畑、山林、住宅地など |
家屋 | 住宅、店舗、工場など |
償却資産 | 飛行機、車両、パソコン、工具など |
固定資産税の税率は、基本的に1.4%となっています。ただし市区町村によって異なる場合もあるので、注意しましょう。
自動車税
自動車税は、自動車を所有している方(車検証上の所有者)が納税する税金です。車の種類や排気量によって、税額が異なります。以下では、一般乗用車の税額を紹介しますので、参考にしてください。
総排気量 | 営業用 | 自家用 |
1L以下 | 7,500円 | 29,500円 |
1L超〜1.5L以下 | 8,500円 | 34,500円 |
1.5L超〜2L以下 | 9,500円 | 39,500円 |
2L超〜2.5L以下 | 13,800円 | 45,000円 |
2.5L超〜3L以下 | 15,700円 | 51,000円 |
3L超〜3.5L以下 | 17,900円 | 58,000円 |
3.5L超〜4L以下 | 20,500円 | 66,500円 |
4L超〜4.5L以下 | 23,600円 | 76,500円 |
4.5L超〜6L以下 | 27,200円 | 88,000円 |
6L超〜 | 40,700円 | 111,000円 |
また、車両の新規登録時や車検時には「自動車重量税」もかかります。
総排気量 | 2年事業用 |
1L以下 | 5,200円 |
1L超〜2L以下 | 10,400円 |
2L超〜2.5L以下 | 15,600円 |
2.5L超〜3L以下 | 15,600円 |
3L超〜4L以下 | 20,800円 |
4L超〜5L以下 | 26,000円 |
5L超〜6L以下 | 31,200円 |
6L超〜7L以下 | 36,400円 |
7L超〜8L以下 | 41,600円 |
8L超〜9L以下 | 46,800円 |
9L超〜 | 52,000円〜 |
なお、2023年5月1日〜2026年4月30日までの登録分は、エコカー減税が利用できます。燃費や排出ガスなどの基準を満たした車両で、自動車重量税が一定額免除になる制度です。車両選びの際には、エコカー減税対象かどうかを確認しましょう。
個人事業主が法人化した場合、税金はどう変わる?
個人事業主が法人化した場合、大きく変わるのは所得税・法人税です。所得額が少ない時期は、法人税よりも所得税のほうが税率が低く、負担が少なくなっています。
しかし所得が一定額を超えると、所得税率が法人税率を上回り、法人より税負担が重くなってしまうのです。所得の増えた個人事業主が節税目的で会社を設立するのは、こうした要因が背景にあります。
それでは改めて、所得税と法人税の違いについて見ていきましょう。
所得税と法人税の違い
所得税と法人税は、どちらも所得金額に応じた額の税金を払う制度です。高所得者からは多く、低所得者からは少なく徴税することによって、格差を是正する効果があります。
所得税と法人税の主な違いは、税率や控除額です。例えば課税所得が180万円の場合、所得税率のほうが法人税率より約10%ほど低くなっています。
しかし課税所得が1,000万円の場合、所得税率のほうが約15%ほど高いのです。このように所得が一定額を超えると、所得税率が法人税率を上回るため、節税のために法人成りを検討する必要があります。
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法人成り・法人化とは?流れを解説
個人事業主の方のなかには、売上や所得が増えてきて「法人化(法人成り)」を検討している方もいるでしょう。しかし、法人化に最適なタイミングを見極めるのは、非常に難しいものです。
以下では、法人化する目安や、メリット・デメリットなどを解説します。法人化するべきか悩んでいる方は、以下を参考にしてタイミングを考えてみましょう。
法人化する目安
法人化する目安として、以下2つのポイントがあげられます。
- 課税売上高の増加により消費税の納税義務が生じた
- 課税所得が800万円を超えた
まずは、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えて、消費税納税義務が生じたタイミングです。法人は、以下の条件を満たせば消費税が免税になります。そのため、納税義務が生じるタイミングで法人化して、消費税負担を抑えることが可能なのです。
- 1期目:資本金が1,000万円未満
- 2期目特定期間の課税売上高が1,000万円以下、
同期間の給与等支払い額が合計1,000万円以下、
設立1期目が7か月以下のいずれかを満たす。
また、課税所得が800万円を超えた場合、法人税よりも所得税のほうが税額が多くなる可能性があります。各種控除の状況にもよりますが、課税所得が800万円を超えた場合にも、法人化を検討したほうが良いでしょう。
法人化するメリット
個人事業を法人化するメリットは、以下のとおりです。
- 給与所得控除や幅広い経費控除などで、税負担を抑えられる
- 赤字の繰越期間が最長10年になる(個人事業は3年間)
- 保険料が全額控除にできる
- 退職金や役員報酬を損金にできて節税になる
- 決算月を任意で決められる(個人事業は12月)
法人化すると、損金計上や経費控除などを柔軟に使えて、節税効果を高められます。また、赤字繰越の期間が長くなるため、資金繰りが悪化した場合に対応しやすいのもメリットです。
法人化するデメリット
法人化した場合、以下のようなデメリットもあります。
- 社会保険への加入義務が生じる
- 会計作業が複雑になる
- 飲食交際費は50%(年800万円)までしか経費にならない
- 赤字でも納税しなければならない
法人化した場合の大きなデメリットが、社会保険への加入義務です。法人化すれば社会保険に加入しなければならず、保険料負担が大きくなります。しかし、保険料控除が個人事業主よりも柔軟に設定できるため、うまく節税すれば負担を軽減できるでしょう。
また赤字であっても納税しなければならないのも、法人化するデメリットです。個人事業主の住民税は赤字なら免税ですが、法人住民税は納税の義務があります。
法人化する流れ
法人化する流れは、以下のようになっています。
- 会社名や事業内容など、基本情報を決定
- 資本金を確保する
- 定款の作成、株式会社は認証手続きをする
- 社判(会社の印鑑)を作成
- 発起人口座に資本金を振り込む
- 法務局で登記の申請を行う
- 法務局にて登記申請の確認をする
法務局での法人登記申請(会社設立)では、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 定款の謄本(株式会社は認証済みのもの)
- 登記すべき事項
- 登録免許税の収入印紙貼付台紙
- 印鑑証明書
- 印鑑届書
- 本人確認証明書
- 設立時取締役の就任承諾書
- 資本金の払い込み証明
※その他、発起人の同意書や委任状などが必要になる場合があります。
法人化した後には、法人口座の解説や、個人事業の廃業手続きなどが必要になります。書類作成だけでもかなりの知識と時間を要するので、基本的には司法書士に依頼したほうが良いでしょう。
法人化に向けた資金調達の方法
法人化に向けては、資本金の調達が必要になります。具体的には、以下のような方法で資金調達するのがおすすめです。
- 補助金・助成金
- 公的機関からの融資
- 銀行融資
- カードローン・ビジネスローン
- ファクタリング
資金調達の方法について、以下で詳しく解説します。
補助金・助成金
事業内容によっては、国や地方自治体などの補助金・助成金を受給できる可能性があります。主に、地域の雇用創生に役立つ事業や、特定分野の成長に影響する事業などが対象となっています。
なお補助金や助成金は、原則として後払いです。法人申請をする前に受給したい場合は、銀行融資やカードローン、ファクタリングなどを活用しましょう。
公的機関からの融資
公的機関からの融資も、法人化の資金調達におすすめです。代表的なのは「日本政策金融公庫」で、場合によっては無担保・無保証人で利用できるものもあります。
特に『新創業融資制度』は原則として無担保・無保証人で利用でき、利率も低くなっています。3,000万円まで融資が受けられるので、大規模な資金調達をしたい場合にはおすすめです。
ただし、融資までの審査に時間がかかり、書類も多く必要となります。手軽に資金調達したい場合には、カードローンやビジネスローンがおすすめです。
銀行融資
銀行融資も、大規模な資金調達をしたい場合におすすめです。後述するカードローンに比べて金利が低く、限度額が大きい特徴があります。
ただし、銀行融資も審査に時間がかかります。場合によっては1か月以上かかるケースもあるため、申請タイミングには十分注意しましょう。保証人や担保が必要になる場合も多くあるため、利用難易度は高いといえます。
カードローン・ビジネスローン
カードローンやビジネスローンは、消費者金融から資金を借りられるサービスです。公的機関や銀行からの融資と比べて、審査が柔軟とされています。即日融資に対応したサービスも多くあるため、とにかく早く手軽に資金調達したい場合には適しているでしょう。
ただし、利率が比較的高いため、返済負担が大きくなりがちです。また限度額も100万以下のケースが多いため、大きな借入をしたい場合には別の方法を検討しましょう。
ファクタリング
ファクタリングとは、売掛債権(報酬を受け取る権利)を売却して、資金調達する方法です。翌月末に報酬を受け取る契約だった場合、ファクタリングを利用すれば、取引先が入金するより前に現金を調達できます。
弊社ペイトナー株式会社では「ペイトナーファクタリング」を提供しています。手数料は10%固定で、最短10分で入金が可能です。以下のページにてすぐにお手続きができますので、ぜひご利用ください。
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まとめ
個人事業を法人化すると、納税額が変わるのはもちろん、法人登記(開業)や税務申告のやり方も大きく変わります。個人事業のように、自分一人で全手続きをするのは難しくなるので、必要に応じて司法書士や税理士などに相談しましょう。
本記事を参考にして、税制上の違いを正しく理解し、法人化の最適なタイミングを考えてみてください。
- 個人事業主と法人で大きく変わるのは、所得税・法人税だよ!
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