法人税が安い国のひとつに「シンガポール」があります。税制優遇や免税・控除制度なども充実しており、税負担が少ないため、海外拠点をシンガポールに設ける企業も少なくありません。
本記事では、シンガポールの法人税について詳しく解説します。シンガポールに法人を設立するメリット・デメリットや、税務申告などについても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
- シンガポールの法人税率は17%!
- 日本の法人税率は原則23.2%、中小企業だと15〜19%だよ
- シンガポールは治安が良く教育水準が高く、インフラも整っていて暮らしやすいと感じる人が多いみたい
目次
シンガポールの法人税は17%
シンガポールの法人税率は、2025年1月時点で17%となっています。
日本の法人税は原則23.2%なので、約5%もの違いがあります。中小企業であっても税率は15〜19%で、特に年間課税額1,000万円を超える企業だと、シンガポールのほうが法人税が安くなるでしょう。
*適用除外事業者を除く
- 年800万円以下の部分:15%
- 年800万円超の部分:19%
*適用除外事業者を除く
*2025年税制改正大綱では一部法人の税率が変更となっていますのでご注意ください。
例えば年間課税所得が1,000万円だった場合、日本(23.2%)だと232万円ですが、シンガポールなら170万円です。納税額が約60万円も安くなるのは、かなり大きな違いでしょう、
法人税の課税対象となる企業
シンガポールの法人税の対象となるのは、シンガポール国内にある現地法人や支店などです。本社の所在地にかかわらず、シンガポールに拠点があれば、そこの売上は課税対象となります。
ただし、経営判断の主体(本社)がシンガポール国内にない場合、非居住者という扱いになり、各種優遇制度は利用できなくなるためご注意ください。
税務申告の方法・期限
シンガポールの法人税申告は、IRAS(内国歳入庁、Inland Revenue Authority of Singapore)へ確定申告書を提出します。申告は電子申告が義務化されています。提出書類は、以下のとおりです。
- 通常:Form C(監査済財務諸表、税額計算書、その他根拠資料を添付)
- 中小企業*1:Form C-S
- 小規模企業*2:Form C-S Lite
*1:年間売上500万Sドル以下など条件を満たす場合
*2:売上高20万Sドル以下
法人税申告の期限は、売上があった翌年11月です。
各事業年度終了から3か月以内に、見込所得額を申告する「見込申告」も必要です。なお、年間売上高500万Sドル*未満で、課税所得がない場合は申告不要となっています。
*Sドル:シンガポールドル
シンガポールの法人税の控除・優遇制度
シンガポールは法人税率が日本より低いのに加えて、さまざまな控除・優遇制度も設けられています。
- エンタープライズ・イノベーション・スキーム
- 二国間租税条約
- グローバル・トレーダー・プログラム
- パイオニア・インセンティブ
- 開発・拡張インセンティブ
- 認定ファイナンス&トレジャリーセンターに対する税制優遇制度
- 部分的免除制度
- 新スタートアップ税額免除制度
それでは、各制度について簡単に解説します。
エンタープライズ・イノベーション・スキーム
エンタープライズ・イノベーション・スキームとは、以下5カテゴリーのビジネスにおいて、所得控除や減価償却費における控除額アップや、現金支給といった優遇措置を受けられる制度です。
- 研究開発
- 知的財産登録
- 知的財産権の取得・ライセンシング
- 研修
- 特定パートナー機関と共同実施される適格イノベーションプロジェクト
二国間租税条約
租税条約を結ぶ国との間で、軽減税率や免税などを受けられる制度です。日本とも租税条約を締結しており、二重課税や脱税防止のための措置を講じています。
グローバル・トレーダー・プログラム
認定を受けた法人が、5〜10%の軽減税率が適用される制度です。シンガポールをオフショア貿易(書類・決済等のみシンガポールを経由し、貨物自体は経由しない貿易)の拠点とする法人が対象となります。
石油や金属、建築資材など、対象となる法人取扱商品は多岐にわたります。
パイオニア・インセンティブ
パイオニア・インセンティブ(Pioneer Certificate Incentive)とは、法人税が免税となる制度です。国内経済の発展計画に適合する製品・サービスに関わる法人が対象となっています。認定は、事業内容や投資規模、技術レベルなどを総合的に審査し、政府が判断します。
開発・拡張インセンティブ
開発・拡張インセンティブ(Development & Expansion Incentive)は、認定を受けた法人が、5〜10%の軽減税率が適用となる制度です。
制度を利用するためには、国内事業の拡張・増強や、規程プロジェクトを実施などをして、認定審査を受ける必要があります。
認定ファイナンス&トレジャリーセンターに対する税制優遇制度
認定ファイナンス&トレジャリーセンターに対する税制優遇制度(FTC)は、グローバル企業に対して、シンガポール内での財務活動や資金調達を奨励するための制度です。
認定企業は、適格FTCサービスや適格FTC活動から生じた所得に対して8%の軽減税率が適用されます。また、適格活動や適格サービスのために、シンガポール国外銀行や金融機関、ネットワーク企業からの借入金利息支払時の源泉税が免除となります。
認定を受けるためには、シンガポール国内で一定規模以上の活動を行う必要があります。
部分的免除制度
部分的免除制度とは、法人課税所得のうち一部が免税となる制度です。はじめの1万Sドルの75%、次の19万ドルの50%が免税となります。トータル20万Sドルの一部が免税となる優れた制度です。
新スタートアップ税額免除制度
新スタートアップ税額免除制度(Tax Exemption Scheme for New Start-UpCompanies)とは、設立3年までの法人のための制度です。はじめの10万Sドルの75%、つぎの10万Sドルの50%が免税となります。対象となるのは、株主数などいくつかの条件を満たすスタートアップ企業です。
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シンガポールに法人を設立するメリット
シンガポールに法人を設立するメリットは、以下のとおりです。
- 制面で有利
- インフラが整備されている
- 教育水準が高い
- 治安が良い
- 自然災害が少ない
- ビジネス環境が整っている
それでは、各メリットについて具体的に解説します。
税制面で有利
前述のとおり、シンガポールは日本とくらべて税負担が少ない国です。
税負担が少なければ、そのぶん設備投資や人件費アップといった施策を打ちやすくなるでしょう。よりスピード感をもって事業拡大することも可能になるかもしれません。
シンガポールは富裕層や大企業を誘致するために、国外の人でも税負担が少なく済むような制度となっています。そのため、今後も税制面で有利な点は維持されると考えられます。
長期的に税負担が少ない状態で法人経営ができれば、国内で活動している法人と大きな差をつけられるかもしれません。
インフラが整備されている
シンガポールは、アジアのなかでもインフラが整っている国です。
米大手コンサルティング企業マーサーが行っている「世界生活環境調査」では、2024年にアジア1位、世界でも30位という結果を残しました(日本は上位50位圏外)。
5G回線は国内の95%をカバーしており、デジタルインフラのレベルも高いといえます。自動車・バス・電車といった交通インフラも整っており、移動にも困りません。
移住を検討している方にとっては、インフラ整備が行き届いているのは非常に魅力的でしょう。
参考:Mercer『2024年世界生活環境調査』
教育水準が高い
シンガポールは、教育水準が高いことでも知られています。
国際的な英語能力テスト『TOEFL』では、2022年時点でアジア1位の成績。OECDの全世界学力テスト『PISA』でも、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野すべてで世界1位を獲得しています。
また『QSアジア大学ランキング2020』では、シンガポール国立大学が2年連続1位、南洋理工大学は2位を獲得しました。
教育水準が高い要因のひとつに、政府予算に占める教育予算の多さがあげられます。コロナ禍前は2割弱、2024年時点でも15%弱が教育のために使われており、これは文化・教育・科学振興合算で全体の約5%となっている日本と比べると、非常に大きな割合です。
移住先での子育てを考えている場合でも、質の高い教育を受けさせられるのは、大きなメリットといえるでしょう。
参考①:ets『TOEFL iBT Scores』
参考②:文部科学省・国立教育政策研究所『PISA2022のポイント』
治安が良い
シンガポールは、アジアのなかでも非常に治安の良い国です。
IEP(Institute of Economics and Peace、シンクタンク経済平和研究所)が発表した『2024年世界平和度指数』では、全世界で5位にランクインしています。
治安が良い要因としては、防犯カメラの多さがあげられるでしょう。公共交通機関やショッピングモール、公共住宅の共有スペースなど、町中にカメラが設置されており、犯罪の抑止力になっています。
また、22時以降は公共の場での飲酒が禁止されているのも、治安の安定につながっているでしょう。
日本と同じように、治安の面で不安なく生活できるのは非常に大きなメリットです。
参考:IEP『2024年世界平和度指数』
自然災害が少ない
シンガポールは地質学的にみて、地震の少ない場所にあるとされています。東南アジアには地震の原因となるプレートの境目がいくつかありますが、シンガポールはこの境目すべてを避ける位置にあるためです。日本は4枚のプレートの境目にあるため、地震が多いのです。
またプレートの境目に位置していないため、活発な火山活動がなく、噴火による被害も発生しにくくなっています。
さらに、シンガポールは赤道直下に位置しており、台風の渦を生むコリオリの力(地球の自転による転向力)が弱いため、台風も発生しにくいというのも特徴です。
厳格な建築基準が定められているため、万が一災害が発生しても、被害を少なく抑えられます。
高温多湿な気候で、季節によってはモンスーン(季節風)による大雨が発生する場合もあります。しかし、日本と比べると自然災害の発生要件そのものが少なく、安心して暮らせるでしょう。
ビジネス環境が整っている
ビジネス環境という面で見ても、シンガポールは非常にレベルの高い国です。
シンガポールは税制面で優れているうえ、スタートアップ企業の育成にも国をあげてサポートしているため、優秀な企業や人材が集まりやすくなっています。
また、世界有数のハブ空港である「チャンギ国際空港」や、世界最大級のコンテナ港「シンガポール港」などがあり、世界各国から人や物が集まっている国です。
事業展開のための充実したサポートを受けながら、刺激的な企業・人材に囲まれてビジネスができるというのも、シンガポールに法人を設立するメリットです。
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シンガポールに法人を設立するデメリット
シンガポールは政治・経済・教育・災害・ビジネス環境など、さまざまな面で魅力がある国です。一方で、日本と比べると、生活するうえでストレスを感じることもあります。
- 物価が高い
- 日本語が通じない
- 国内市場が小さい
それでは、シンガポールに法人を設立するデメリットを詳しく解説します。
物価が高い
シンガポールは物価が高いことで有名です。特に家賃と食費が高く、家賃は東京都の相場の約2〜3倍ほど、食費は日本の1.5倍ほどとも言われます。
インフレが進んでいるのも、物価高の要因です。CPI(消費者物価指数)は2022年に6.1%、2023年4.8%となっています。これはアメリカを上回るスピードとなっています。
特に最近は円安がすすんでいることもあり、シンガポール含む海外の物価が高いと感じる人も多いでしょう。
税負担が少なくても、物価高による支出の増加によって、生活水準が高くならない、事業資金が増えないといったケースも考えられます。
日本語が通じない
どれだけ生活しやすい国といっても、シンガポールは海外です。日本語が通じないのは、かなり大変でしょう。
コンビニ・レストラン・病院・役所など、どこへ行っても言葉が通じないので、日々ストレスが溜まります。
特に、病院や役所など重要度の高い話をする場所において、言葉が伝わらないのは、場合によっては命に関わります。
しかし、シンガポールは小学校の時点で英語が教育言語となっているため、ほとんどの人が英語を話せます。
また、昨今は日本からの移住者や旅行・留学者も増えているため、日本語対応の施設も増えているようです。
とはいえ、やはり日常的に母国語(日本語)が通じないのは、ある程度のストレスにはなるでしょう。
国内市場が小さい
シンガポールは東京23区ほどの広さしかありません。そのため、国内市場は非常に小さいものです。
人口は約590万人、GDPは約8兆円で世界32位(日本4位)で、これは愛知県や大阪府などと同じ規模です。経済規模はインドネシアの3分の1程度となっており、やはり大きくはありません。
そのため、シンガポールに拠点を移したとしても、グローバルな事業展開をしていかないと、事業規模はなかなか大きくならないでしょう。
参考:IMF『GDP, current prices』
参考:JETRO『シンガポール概況と日系企業の進出動向』
シンガポールのその他の税金
シンガポールには、法人税以外にもさまざまな税金があります。
- 個人所得税
- 財・サービス税(消費税のようなもの)
- 印紙税
- 不動産税
- 源泉税 など
それぞれ日本と比べれば低い税率で抑えられているものの、昨今は財政赤字が続いており、各種税率の引き上げや制度改正が行われています。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
シンガポールの法人税に関するよくある質問
シンガポールの法人税に関しては、以下のような質問を抱く人が多くいます。
- 世界で一番法人税が安い国は?
- タックスヘイブンとは?
- 租税条約とは?
それでは、3つのよくある質問について回答していきます。
世界で一番法人税が安い国は?
世界で一番法人税が安い国は、法人税率0%のバハマ・アンギラ、バーレーン、ケイマン諸島、ベリーズ、英領バージン諸島、バミューダ、マン島、ジャージー・タークス・カイコス諸島です。
なお、法人税がある国のうち世界一税率が低いのは、法人税率9%のハンガリー、アラブ首長国連邦、バルバドスです。
なお、シンガポールは法人税率単体で見ると世界一安くはありませんが、税制優遇や控除などの制度が充実しているため、実質負担は低く抑えることが可能です。
タックスヘイブンとは?
タックスヘイブン(Tax Haven)とは、国外企業に対して税制優遇措置を設けている国や地域のことです。そもそもHavenには「避難所、安息の地」といった意味があり、タックスヘイブンは「税制上の避難所、税負担の少ない地」といった意味があります。
2025年1月現在は、ルクセンブルク、モナコ、米国東部のデラウェア州などがタックスヘイブンの代表例です。シンガポールも、法人税率自体はそれほど低くないものの、優遇制度が充実しているため、タックスヘイブンのひとつとされています。
租税条約とは?
租税条約とは、条約を結んだ国同士で、二国間の健全な投資・経済交流の促進するため、課税関係の安定。二重課税の除去・脱税回避などのため対策を講じていくという条約です。
現在は、国際標準となる「OECDモデル租税条約」を中心として条約を締結するのが一般的となっています。日本もOECD加盟国であるため、おおむねこのOECDモデルに沿った内容の条約を締結しています。
参考:財務省『租税条約に関する資料』
まとめ
シンガポールは法人税率が日本よりも低く、税制優遇制度も充実しているため、法人拠点を移す企業が増えています。
教育水準・インフラ・治安・自然災害といった面でも優れており、移住を検討する人も少なくありません。
一方で、物価が高い点や、日本語が通じない点、シンガポール国内市場は規模が小さい点などには注意が必要です。また、非居住法人については、利用できない税制優遇制度が多い点にも注意しましょう。
本記事を参考にしながら、税負担について視野を広げて考え、自社にあった経営をしていきましょう。
- シンガポールの法人税率は17%!
- 日本の法人税率は原則23.2%、中小企業だと15〜19%だよ
- シンガポールは治安が良く教育水準が高く、インフラも整っていて暮らしやすいと感じる人が多いみたい
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