建設業や製造業などが対象となる「労働安全衛生法」の対象者が、フリーランス(個人事業主)まで拡大される見込みです。法律の対象者が拡大された場合、事業者は早期に対応する必要があり、対応が遅れ問題が発生した場合、罰金や事業停止などのペナルティが科される可能性があります。本記事で、対象者が拡大される背景や、法律の内容、事業者の対応方法などを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
- フリーランスが労働安全衛生法の対象になる可能性は高いよ!
- 法律の対象者が拡大した場合は、安全教育の実施やリスクアセスメントといった義務規定を今一度見直そう!
- フリーランスは、採用・管理コストが高まったとしても雇い入れてもらえるように、競争力を高めておこう!
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目次
労働安全衛生法はフリーランスも対象になる?
フリーランスも労働安全衛生法の対象になるかは、まだ確定していません。ただし、2023年7月31日の有識者会議で厚生労働省が「フリーランスも対象にすべき」といった旨の報告書案を提出し、大筋了承された状況です。大きな反対意見が出ない限りは、このままフリーランスも対象となる方向で進められるでしょう。
対象にすべきとされた背景
労働安全衛生法をフリーランスも対象にすべきと提案された背景には、フリーランスの増加があります。建設現場では、会社に所属せずフリーランスとして働く人が増えてきました。フリーランスの増加に伴い、労働安全衛生法が対象にならず、労働災害が発生した際にしっかりとサポートしてもらえないケースも増加してきたのです。
フリーランスが事故に遭わないために、また事故発生時に生活困難にならないように、労働安全衛生法の対象にすべきではないかと提案されました。
フリーランスも対象になった場合の変化
フリーランスも労働安全衛生法の対象になった場合、以下のような点が変化します。
- 業務上の事故で死亡・4日以上休業するけが場合に、労働基準監督署への報告を義務づけ
- 一般消費者からの仕事においてフリーランスがけがをした場合は、本人が労働基準監督署に情報提供
- 過重労働(働き過ぎ)によって脳や心臓、精神に疾患を負った場合、本人が報告できる仕組みを整備
- 災害発生時の退避や、危険場所への立ち入り禁止措置をフリーランスも対象に
- 足場や機器を設置した際に企業が安全保護する対象をフリーランスにも拡大
- フリーランス自身に労働災害防止策を義務づけ
- フリーランスに対しても安全衛生教育の教育を義務づけ
- 年1回の健康診断を推奨
フリーランスや個人事業主の安全確保、そして事故を国が把握できる体制作りを強化するといった点がポイントになっています。また、
有識者会議の報告書案で指摘されたポイント
事故を把握する体制づくり
フリーランス(個人事業主)は労働安全衛生法の対象になってないので、事故にあっても報告義務がなく、国が状況を把握できません。そこで、労働安全衛生法の対象をフリーランスにも拡大して、事故の報告を義務づけることによって、国が全国の状況を正確に把握できるような体制をつくろうとしています。各地からの報告を受けられるようになれば、国は事故状況をまとめて、防止対策を業界に促していくことが可能になります。
事故防止措置の徹底
労働安全衛生法のなかでも非常に重要なのが、事故防止措置の徹底です。事故が発生する原因を極限まで減らせれば、より安全に業務を行える環境がつくれます。防止措置や機器点検、安全に関する教育などを徹底することで、事故を減らしていくのも、報告書において指摘されたポイントです。
健康管理への配慮
事故を減らし快適に業務を行うために、健康管理への配慮も徹底すべきと指摘されています。具体的には、健康診断の受診を推奨する、報酬に健康診断の費用を盛り込むといった内容です。また、長時間労働を余儀なくされている労働者に対しては、医師による面接指導をするよう促すのも、健康管理をするうえでのポイントとなっています。健康管理への配慮を徹底することによって、生産性の向上や最終的なコストの削減などが見込めます。
労働安全衛生法とは?目的と内容
労働安全衛生法とは、労働者の安全を守るとともに、職場の衛生環境を保全することを目的として作られた法律です。過去の労働災害事例を参考にしながら、さまざまな義務規定が設けられてきました。
組織・スタッフの指定
一定規模以上の事業場においては、総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医を配置する必要があります。まず、総括安全衛生管理者の数についての規定を見てみましょう。総括安全衛生管理者に関しては、業種ごとに設置義務が生じる規模(人数)が異なります。
業種 | 事業場の規模 |
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業 | 100人以上 |
製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 | 300人以上 |
その他 | 1,000人以上 |
安全管理者は、業種や規模によって配置義務が異なります。以下の業種において、事業場の規模が50人以上だった場合は、安全管理者を設置しなくてはなりません。
▶︎50人以上規模で安全管理者を設置しなければならない業種
- 林業
- 鉱業
- 建設業
- 運送業
- 清掃業
- 製造業(物の加工業を含む)
- 電気業
- ガス業
- 熱供給業
- 水道業
- 通信業
- 各種商品卸売業および小売業
- 家具・建具・じゅう器等卸売業および小売業
- 燃料小売業
- 旅館業
- ゴルフ場業
- 自動車整備業及び機械修理業
規模が大きい場合、選任の安全管理者を設けなくてはならないので注意しましょう。専任の安全管理者は、ほかの事業場と掛け持ち禁止になります。
業種 | 選任管理者の配置義務がある規模 |
建設業、有機化学鉱業製品製造業、石油製品製造業 | 300人 |
無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業 | 500人 |
紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業 | 1,000人 |
上記以外の業種 (過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場に限る) | 2,000人 |
続いて、衛生管理者の数に関する指定を見てみましょう。衛生管理者については、50人以上の事業場であれば、規模ごとの人数を配置しなくてはなりません。
事業場の規模 | 衛生管理者の数 |
50人~200人 | 1人 |
201人~500人 | 2人 |
501人~1,000人 | 3人 |
1,001人~2,000人 | 4人 |
2,001人~3,000人 | 5人 |
3,001人以上 | 6人 |
産業医は、常時50人以上か、3,000人を超えるかによって配置人数が異なります。
事業場の規模 | 産業医の数 |
50人以上 | 1人 |
常時3,000人超 | 2人以上 |
上記のように、規模や業種によって配置すべき人員・役職は異なります。まずは事業場の規模をしっかりと把握したうえで、適切な人員を配置しましょう。
(参考:厚生労働省 東京労働局『共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし』)
措置の対象になる危険
事故を未然に防ぐために、リスクがあると考えられる場所や機械などについては、適切な処置を取る必要があります。
- 機械、器具その他の設備による危険
- 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
- 電気、熱その他のエネルギーによる危険
- 労働者が墜落するおそれのある場所
- 土砂等が崩壊するおそれのある場所
- 原材料、ガス、蒸気、粉じん、排気、病原体等、異常気圧等など
また、労働者が健康な状態で作業を行えるように、また危険を回避するために、以下の措置を講じる必要もあります。
- 換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難及び清潔に必要な措置
- 労働災害が発生する可能性が高まった際の避難措置
上記のように、労働災害につながる要因をできる限りなくしつつ、万が一の場合に備えてすぐ対処できる状況を作っておくことが求められます。
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災害の未然防止措置
災害の未然防止措置(リスクアセスメント)は、平成18年の法改正から導入された努力義務です。具体的には、以下の対策を講じる必要があります。
- 事業場のあらゆる危険性又は有害性を洗い出す
- 想定されるリスクを見積もる
- 見積もったリスクを回避するための対策を実施する
- 対策の結果を記録しておく
上記のように、まずどういった危険が想定できるかを考え、そのうえでリスク回避のための対策を検討・実施する必要があります。また、対策をした際の結果を記録するのも努力義務として規定されています。
参考:厚生労働省 職場のあんぜんサイト『リスクアセスメント』
元方事業者・注文者に対する義務規定
事業が「請負」の契約で行われる場合は、元方事業者にも義務規定が設けられます。安全衛生法の義務主体は、通常は事業者です。しかし、請負の場合は、注文者に対して「遵法指導」や「リスク回避に関する指導」といったことを行う義務が生じます。なお「元方事業者」とは、仕事の一部を請負事業者に行わせている人を意味します。どういった対策や指導が必要かは業種によって異なりますが、具体的には以下のような義務規定が設けられています。
- 下請業者に対する遵法指導や違法行為の是正指示
- 危険な場所での作業に関する指導や対策の実施
- 労働災害の防止措置
- 救護に関する必要な措置
また、元方事業者と同様に、注文者に対しても責務があります。
- 建設業および造船業における、労働災害を防止するための措置(第644条〜第662条)
- 安全衛生関連法令が規定している違反指示の禁止
安全衛生教育の実施
現場から危険をなくしたり、適切なスタッフを配置したりするだけでなく、安全に関する教育を行う必要もあります。
- 労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能力向上教育(第19条の2第1項)
- 雇い入れ時の安全又は衛生のための教育(第59条第1項)
- 作業内容が変更になった際の教育(第59条第2項)
- 厚生労働省令で定める危険または有害な業務における事前教育(第59条第3項)
- 労働者を指導または監督する者に対する教育(第60条)
- 危険又は有害な業務を行う者への教育(第60条の2第1項)
上記は、これまでに発生した現場での事故を受けて定められた内容です。安全に仕事を終えるためにも、必ず実施しましょう。
有資格者以外の就業を禁止する業務
クレーンの運転や、その他に定められている業務に関しては、免許や技能講習の資格がないと就業できません。就業制限が設けられている業務には、以下のような仕事があります。
- 破作業
- 制限荷重が1t以上の揚貨装置の運転
- ボイラー(小型ボイラーを除く)の取扱い
- つり上げ荷重が1t以上の移動式クレーンの運転
- ガス溶接等の作業
- 機体重量が3t以上の解体用の車両系建設機械の運転
- 最大荷重が1t以上のショベルローダー又はフォークローダーの運転
- 最大積載荷重が1t以上の不整地運搬車の運転
- 作業床の高さが10m以上の高所作業車の運転
- つり上げ荷重が1t以上のクレーン、移動式クレーン等の玉掛け作業
上記の業務に関しても、これまでの事故状況を鑑みて就業制限が設けられています。ほんの少しの作業であったとしても、必ず有資格者が行うようにしてください。
参考:参考:厚生労働省 職場のあんぜんサイト『就業制限』
健康保持のための検査等の実施
労働者が健康に作業を行えるよう、健康診断や作業環境測定などを実施するのも義務づけられています。
- 作業環境測定
- 作業方法・時間の管理
- 定期的な健康診断の実施
- 健康診断結果によって、医師からの意見聴取や必要な措置の実施
ただ検査を行うだけでなく、健康診断の内容によっては、労働者をどのように働かせるべきか専門家に意見を聞いたり、対策を講じたりする必要があります。
職場環境の整備
事業者は、労働者が快適に働くための環境を整備する必要があります。
- 温度・湿度・明るさなどの調整
- 騒音対策
- 粉じんや臭いの対策
- 身体に負担がかかる作業方法の改善
- 読みやすい文字の採用
上記のように、温度や湿度といった要素はもちろん、音や臭いなどに関する対策も必要です。さらに、作業方法についても、労働者が疲れやストレスを蓄積しないよう対策が必要になります。
参考:厚生労働省『事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針』
フリーランスも対象となった場合に事業者がとるべき対応
労働安全衛生法がフリーランスも対象になった場合、これまで社員にのみ行っていた対策を、フリーランスにも適用させる必要があります。具体的には、事故発生時の報告や安全衛生教育の実施、健康診断の実施などです。
- 適切な人数のスタッフ(総括安全衛生管理者や産業医等)の配置
- 就労時の安全衛生教育の徹底
- リスク回避のための対策の実施
- 定期的な健康診断の実施
- 温度・湿度・騒音をはじめとした労働環境の改善
- 精神的・身体的にストレスがかかりにくい作業方法の導入
上記の対策により、フリーランスを雇う場合であっても、これまで以上にコストがかかる可能性があります。事業者は、対策にかかる費用も含めて検討をして、対象者拡大を想定した対策を講じていきましょう。
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まとめ
確定事項ではありませんが、将来的にはフリーランス(個人事業主)も労働安全衛生法の対象になる可能性は極めて高いといえます。対象者が拡大した場合、フリーランスを雇う際のコストが増加するため、場合によっては雇ってもらいにくくなる点は懸念事項です。事業者は、コスト面もしっかりと考慮しながら、法改正に備えていく必要があります。フリーランス側は今まで以上にコストがかかったとしても採用してもらえるよう、競争力を高めていきましょう。
- フリーランスが労働安全衛生法の対象になる可能性は高いよ!
- 法律の対象者が拡大した場合は、安全教育の実施やリスクアセスメントといった義務規定を今一度見直そう!
- 採用・管理コストが高まったとしても雇い入れてもらえるように、競争力を高めておこう!
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