個人事業主が確定申告をする場合、仕入れに関して「税込・税抜どちらの金額で処理するのか」「売上税額ってどうやって処理するのか」と疑問を抱く人が少なくありません。そんな疑問を抱くみなさまに向けて、本記事では、仕入税額や売上税額の計算方法・処理方法を詳しく解説します。
- 経費は、税込・税抜どちらで処理しても大丈夫だよ!
- ただし、それぞれメリット・デメリットがあるので注意しよう
- インボイス制度開始に備えて、本記事で売上税額や仕入れ税額の計算方法を確認しておいてね!
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そもそも消費税とは何か?
消費税とは、商品やサービスなどを購入した際にかかる税金です。2023年8月現在の消費税率は、以下のとおりです。
税の種類 | 標準税率 | 軽減税率 |
消費税率 | 7.8% | 6.24% |
地方消費税率 | 2.2%(消費税額の22/78) | 1.76%(消費税額の22/78) |
合計 | 10% | 8% |
なお、以下のようなものは消費税が非課税です。
- 土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除く)
- 有価証券、支払手段の譲渡
- 利子、保証料、保険料
- 特定の場所で行う郵便切手、印紙などの譲渡
- 商品券、プリペイドカードなどの譲渡
- 住民票、戸籍抄本等の行政手数料
- 外国為替
- 社会保険医療
- 介護保険サービス・社会福祉事業
- 出産費用
- 埋葬料・火葬料
- 一定の身体障害者用物品の譲渡・貸付け
- 一定の学校の授業料、入学金、入学検定料、施設設備費
- 教科用図書の譲渡
- 住宅の貸付け(一時的なものを除く)
参考:国税庁『No.6303 消費税及び地方消費税の税率』
上記以外のもの、例えば食材・梱包資材・パソコン・広告費用・物品配送料など、ほとんどの取引では消費税がかかります。
軽減税率とは?
軽減税率とは、2019年(令和元年)に消費税が8%から10%へ引き上げになるのに伴い、消費者負担の軽減を目的として導入された制度です。一部商品の消費税率が、10%ではなく8%のままになっています。軽減税率の対象は、以下の商品です。
- 酒類・外食を除く飲食料品(外食・ケータリング等は除く)
- 週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)
参考:国税庁『消費税の軽減税率制度が実施されます』
国税と地方税(地方消費税)とは?
消費税は「国税」と「地方税」に分かれています。多くの人は、消費税は10%もしくは8%と覚えているかと思いますが、これは国税と地方税が合わさった税率なのです。国税と地方税の主な違いは、国税は国に対して納めるのに対し、地方税は都道府県や市区町村に納めるという点があります。ただし、消費税に関しては国税と地方税(地方消費税)を区別せず、一括で所轄の税務署に納めれば問題ありません。
仕入れにかかった消費税は経費にできる?
仕入れにかかった消費税は、そのまま経費にしても問題ありません。また、経費としては計上せず、税抜金額で処理することもできます。処理方式によってメリット・デメリットがあるので、事前にどちらを選択するか決めておきましょう。
参考:国税庁『税抜経理方式又は税込経理方式による経理処理』
経費にできる税金は?
税金は、種類によって経費にできるものと、できないものがあります。
経費にできる税金 | 経費にできない税金 |
消費税、個人事業税、固定資産税、自動車税、自動車取得税、不動産取得税、登録免許税、特別土地保有税、地価税、印紙代など | 所得税、復興特別所得税、住民税、相続税、贈与税、加算税、各種罰金延滞税など |
上記のとおり、消費税をはじめ個人事業税や固定資産税、自動車税などは、経費として計上できる一方で、住民税や所得税は経費にすることはできません。
税込処理方式と税抜処理方式の違い
税込処理方式と税抜処理方式の主な違いは、消費税込みの金額で処理するのか、税抜で処理するのかです。「税込で計算したほうがラクだし、節税額(控除額)も多くなるからよさそう」と思うかもしれませんが、一概に税込のほうが良いとは言い切れません。
メリット | 処理が簡単特別税額控除などは、金額が大きくなるために節税効果も大きくなる |
デメリット | 本体価格と税額を分けずに処理するので、仕入れの実態が分かりにくくなる減価償却や交際費といった控除上限額が決まっているものは、税込処理で金額が大きくなると不利になるケースもある |
メリット | 仕入れの実態が把握しやすくなる |
デメリット | 本体価格と消費税を分けて処理するので、作業が煩雑になる税抜で処理するので、消費税は経費として計上しないことになる |
税込処理は、処理が簡単かつ控除額が大きくなるのがメリットです。一方、税込で経費計上をした場合、逆に上限額を超えてしまって、課税対象の金額が増えてしまうリスクもあります。税抜の場合、処理は煩雑になってしまいますが、仕入れにどのくらいかかっているのか実態を把握しやすくなるのはメリットです。
税込処理方式の場合
税込処理方式の場合、以下の方法で処理をします。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
仕入高 | 33,000円 | 現金 | 33,000円 | 商品仕入れ |
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
現金 | 33,000円 | 売上高 | 33,000円 | 商品売上 |
上記のように、税込処理の場合は消費税込みで処理するので、非常にシンプルです。
税抜処理方式の場合
税抜処理方式の場合、以下の方法で処理をします。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
仕入高 | 30,000円 | 現金 | 33,000円 | 商品仕入れ |
仮払消費税等 | 3,000円 |
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
現金 | 33,000円 | 売上高 | 30,000円 | 商品売り上げ |
仮受消費税等 | 3,000円 |
税抜処理の場合、消費税は「仮払消費税等」や「仮受消費税等」といった勘定科目で処理をします。
売上に含まれる消費税の扱いは?
売上に含まれる消費税は、免税事業者でない限り、納税の義務があります。ただし、売上に含まれる消費税全て(全てが通常税率であれば、売上 × 10%)を納める必要はありません。売上に含まれる消費税から、仕入れにかかった消費税を差し引いて納税するためです。また、免税事業者であれば消費税の納税義務はないので、ご安心ください。
「免税事業者」とは、課税売上高が1,000万円以下の事業者のこと
一定の条件を満たしている事業者は「免税事業者」という扱いになり、消費税を納めなくてもよいことになります。具体的な条件は、課税売上高が1,000万円以下かどうかです。課税売上は、消費税の課税対象となる売上から、売上返品・売上値引・売上割戻を差し引いた金額を指します。つまり、課税売上が1,000万円未満の小中規模事業者に関しては、消費税を納税する義務が免除されるのです。
インボイス制度がスタートしても免税事業者の制度は残る
インボイス制度がスタートすると、免税事業者も消費税を払わなくてはならないんじゃないかと不安を抱いている方も少なくありません。結論から言うと、インボイス制度がスタートしたとしても、免税事業者の制度は残るので、消費税を納めなくても問題ないケースはあります。
しかし、免税事業者は適格請求書(インボイス)を発行できません。適格請求書を発行できない場合、取引先は仕入れ税額控除を使えず、今までよりも多く税金を払う必要がでてきます。つまり、免税事業者で居続けると、取引先が損をしてしまい、結果として取引停止や報酬減額といった不利益を被ることになる可能性があるのです。こうした背景から、インボイス制度が導入されると、免税事業者ではいられなくなるといった声があがっています。
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売上税額(消費税額)の計算方法を解説!
売上税額の計算方法を調べると「簡易課税制度」「本則課税制度」「積上げ計算」「割戻し計算」などさまざまな用語が出てきて、混乱する方が多くいます。これらの用語について、まずはどういった内容なのかを整理しましょう。
- 簡易課税制度:見込み仕入れ率を用いて計算、簡単に税額を計算できる
- 本則課税制度:積上げ計算方式と割戻し計算方式を制度に則って組み合わせる
上記のように、算出方法には簡易課税制度と本則課税制度の2種類があり、本則課税制度に関しては積上げ計算と割戻し計算という2種類の計算方式を用いて税額を計算するということです。
仕入れ税額とは食品や資材などを仕入れた際にかかった税金のこと
仕入れ税額とは、食品や資材などを仕入れた際にかかった税金を指します。事業者は、仕入れにかかった税額を、自社の売上税額(売上にかかった消費税)から控除することが可能です。仕入れ時に消費税を払って、さらに売上からも消費税を支払ってしまうと、二重課税になるためです。
簡易課税制度での計算方法
簡易課税制度では「みなし仕入率」を利用して仕入税額を計算します。みなし仕入率とは、業種ごとに「売上に対してこのくらいの金額の仕入れを行うだろう」と定められた利率のことです。事業内容にも寄りますが、普通計算するよりも控除金額が大きくなる可能性がある点が魅力となっています。なお、簡易課税制度は以下の条件を満たす場合のみ利用できます。
- 一昨年の課税売上が5,000万円以下
- 所轄の税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出済
簡易課税制度では、以下のみなし仕入率を使用して税額を計算していきます。
事業区分 | みなし 仕入率 | 該当する事業 |
第1種事業 | 90% | 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 |
第2種事業 | 80% | 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます。 |
第3種事業 | 70% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 |
第4種事業 | 60% | 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。なお、第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第4種事業となります。 |
第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除きます。 |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
上記のみなし仕入率を用いて、仕入税額および売上税額(納税額)を計算してみましょう。
- 売上税額 × みなし仕入率 = 仕入税額
- 売上税額 – 仕入税額 = 消費税の納税額
上記の方法で、仕入税額および売上税額を求めることができます。
本則(一般)課税制度での計算方法
本則(一般)課税制度を選択した場合は、積上げ計算もしくは割戻計算という方式で税額計算を行います。理解するのが少し難しい部分ですが、適切に税額が計算できるよう、それぞれの特徴を把握しておきましょう。
- 売上で発生した消費税をそれぞれ計算する方法
- 処理は煩雑になるが、場合によっては利益が増える可能性がある
- インボイス制度の導入にともない、採用可能となった計算方法
- 1年間の売上総額に税率をかけて税額を求める計算方式
- 処理は簡単だが、場合によっては積上げ計算よりも利益が減る
- インボイス制度導入前は、割戻し計算のみだった
続いて、積上げ計算と割戻し計算の方法について解説します。
- 軽減税率の対象となる課税仕入れ(税込み) × 6.24/108 = A
- 標準税率の対象となる課税仕入れ(税込み) × 7.8/110 = B
- A + B = 仕入税額の合計額
参考:国税庁『Ⅴ 適格請求書等保存方式の下での税額計算』
- 軽減税率の対象となる課税売上(税込) × 100/108 = 軽減税率の対象となる課税標準額
- 軽減税率の対象となる課税標準額 × 6.24% = A
- 標準税率の対象となる課税売上げ(税込み) × 100/110 = 標準税率の対象となる課税標準額
- 標準税率の対象となる課税標準額 × 7.8% = B
- A + B = 売上税額の合計額
参考:国税庁『Ⅴ 適格請求書等保存方式の下での税額計算』
上記のようなかたちで、売上税額を求めます。
積上げ計算・割戻し計算の組み合わせ
積上げ計算が採用可能となる2023年10月以降では、積上げ計算と割戻し計算をどのように組み合わせるかに関して、制約が設けられています。
- 売上税額は原則として「割戻し計算」で算出
- 仕入税額は原則として「積上げ計算」で算出
- 売上税額を積上げ計算(特例)で算出する場合は、仕入税額も積上げ計算で算出しなくてはならない
まず、売上税額に関しては原則「割戻し計算」をするように定められています。そして、仕入税額に関しては原則「積上げ計算」をすることとなっています。また、売上税額を積上げ計算で求めた場合、仕入税額も必ず積上げ計算で求めなくてはならないので、注意しましょう。
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まとめ
個人事業主が確定申告を行う場合、税込・税抜どちらで処理をしても問題ありません。消費税を経費にしたいなら税込、上限額を超えたくない、もしくは実態をしっかりと把握したい場合は税抜で処理をしましょう。
また、インボイス制度の導入に伴い、免税事業者でなくなる個人事業主も多くいると思います。仕入れ税額や売上税額の計算は、慣れるまで少し複雑に感じると思いますので、本記事を参考にしながらしっかりと理解して、制度スタートに備えましょう。
- 経費は、税込・税抜どちらで処理しても大丈夫だよ!
- ただし、それぞれメリット・デメリットがあるので注意しよう
- インボイス制度開始に備えて、本記事で売上税額や仕入れ税額の計算方法を確認しておいてね!
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