昨今は働き方が多様化し、さまざまな仕事を引き受けるフリーランスも増えてきました。複数事業を行う際、気になるのが「個人事業を複数もつのって大丈夫?」という点だと思います。
本記事では、個人事業を複数もつメリット・デメリットや、確定申告の方法などを詳しく解説します。開業届や屋号などに関しても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 個人事業を複数もつのは、法的にまったく問題ないよ!
- 収入を安定させやすい、柔軟なサービス展開が可能となるなど、複数事業をもつメリットは多くあるんだ
- ただし、個人事業税の税率が事業ごとに違ったり、確定申告が複雑になったりするので注意も必要だよ!
目次
個人事業は複数もっても大丈夫?
個人事業を複数もつのは、まったく問題ありません。むしろ、個人事業主のなかには「ライター + デザイナー」「フォトグラファー + 動画編集代行」など、複数事業をもつ人が多くいます。
なお個人事業が複数ある場合、開業届の「職業欄」にはメインの収入源となってる職業を記載しましょう
複数事業を展開する例
複数事業を展開する例としては、以下のようなケースがあります。
- 関連事業を複数展開:執筆と撮影、動画編集とSNSコンサル
- 好きな仕事と別業種を組み合わせる:演奏とSE、イラストと人材
どんな事業を組み合わせるかは、まったくの自由です。専門分野に関連する事業を展開したり、安定して稼げる仕事と好きな仕事を組み合わせたりと、自分に合ったスタイルを考えてみましょう。
複数人で個人事業を営むのもOK
個人事業を複数人で共同経営するのも、法的には問題ありません。共同経営のスタイルとしては、以下のようにさまざまな形態があります。
- 複数の個人事業主が集まって経営
- 代表のみ個人事業主で、その他は従業員(雇用契約)
- 代表のみ個人事業主で、その他は下請け
共同出資なのか、代表のみ出資なのかなど、共同経営にはさまざまなパターンがあります。また、複数の個人事業主で経営する場合は、権利関係でトラブルになるケースも少なくありません。
全員が気持ちよく働けるように、どういったかたちで経営するかよく検討しましょう。
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個人事業を複数もつメリット
個人事業を複数もつメリットとしては、以下のようなものがあります。
- 収入激減のリスクを減らせる
- 柔軟な事業展開が可能になる
- 他業種のやり方を別事業に活かせる
以下では、個人事業を複数もつメリット3つを紹介します。
収入激減のリスクを減らせる
複数の事業を営んでおけば、収入激減のリスクを減らせます。例えば、1つの事業だと社会情勢の変化や、取引先の状況によって、収入が大きく減少するリスクがあるでしょう。
しかし、事業を複数もっている場合は、収入源が複数になり安定させやすくなります。もちろん、急激な景気低迷などによって収入が減るリスクはあるものの、1つの要因によって収入が大きく減少するのは防ぎやすくなるでしょう。
柔軟な事業展開が可能になる
柔軟な事業展開が可能になるのも、複数の事業をもつメリットです。いくつかの業種を組み合わせることによって、単一業種では難しいサービスを提供できます。
例えば「SNSコンサル × 動画編集」であれば、ただ運用方法のコンサルをするだけでなく、投稿する素材の提供までできるでしょう。結果として、より顧客のSNS運用に深く関われて、結果も出しやすくなります。
こうした柔軟なサービスが展開できるようになるのも、個人事業を複数もつメリットです。
他業種のやり方を別事業に活かせる
業種ごとのノウハウを、別の業種・事業に活かせるのも、複数事業を展開するメリットのひとつです。接客業・IT系など、業種ごとに仕事の進め方やポイントはまったく異なります。事業計画の立て方や、集客方法もさまざまでしょう。
複数事業を展開していれば、業種ごとのノウハウを各事業に転用して、より効率良いやり方を模索できます。
個人事業を複数もつデメリット
複数の個人事業をもっていると、さまざまなメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
- 資金計画や事業計画が複雑になる
- どちらも中途半端になるリスクがある
デメリットもしっかり把握したうえで、複数の個人事業をもつべきか検討しましょう。
どちらも中途半端になるリスクがある
個人事業を複数もつ際に注意したいのが、どれも中途半端になるリスクです。通常であれば「エンジニア」「ライター」「デザイナー」など、特定の専門分野に絞って事業を進められます。スキルを高めるのも、営業をするのも、1つの分野だけで良いのです。
しかし、複数の事業をもっていると、その数だけスキルアップや営業をする必要があります。結果として時間が足らず、全分野においてスキルも実績も中途半端という結果になりかねません。
各事業が中途半端にならないように、時間の使い方や仕事の進め方などを工夫しましょう。
資金計画や事業計画が複雑になる
資金計画や事業計画を、事業の数だけ考えなければならないのは、複数事業を展開する際のデメリットです。個人事業であっても、資金をどのように使うか、またどうやって事業展開するかは慎重に考えないといけません。
個人事業主の場合、複数の事業があっても財布は実質1つという感覚になると思います。しかし、事業ごとの資金繰りを適当にしていると、各事業でどのくらい利益が出ているか把握しにくくなるのです。
各事業の状態を正確に把握し、より着実に事業展開していくために、事業別で資金計画や事業計画を考える必要があります。
所得の種類を把握しよう!
複数の個人事業をもっている場合、所得の種類によっては、確定申告や決算書の作成が複雑になるかもしれません。確定申告・決算書を作るまえに、まず所得の種類について把握しておきましょう。
所得の種類 | 概要 |
◎不動産所得 | 家賃や土地代などの収入 |
◎給与所得 | 雇用契約を結ぶ会社からの給与等 |
◎〇配当所得 | 株の配当金 |
〇事業所得 | 事業による所得 |
〇利子所得 | 預貯金や公社債などの利子 |
〇一時所得 | 保険の満期返戻金や、競馬の払い戻し等 |
〇譲渡所得 | 資産譲渡時の所得 |
〇雑所得 | 事業所得や配当所得など、ほかの所得に該当しないもの |
山林所得 | 山林の譲渡によって生じる所得 |
退職所得 | 退職金 |
上記のうち「◎」のものは全て、「〇」は一部が総合課税の対象です。何もついてない所得は、全て分離課税の対象となります。では、総合課税と分離課税について見ていきましょう。
※配当所得は原則として総合課税の対象ですが、分離課税を選択することもできます。
総合課税
総合課税は、事業所得以外がある場合でも、合算で所得申告できるものです。1部の確定申告書にまとめて記載できるため、計算や記載が簡単になります。なお、事業所得や利子所得のうち、以下のような所得は総合課税の対象外です。
所得の種類 | 総合課税・分離課税の扱い |
配当所得 | 上場株式配当など一部所得は、総合課税・申告分離課税どちらか選択できる |
事業所得 | 基本的には総合課税対象株式譲渡や先物取引の所得は対象外 |
利子所得 | 基本的にすべて対象外国外の預貯金利子や、同族会社発行の私募債利子は総合課税に含めることが可能 |
一時所得 | 懸賞金や、保険期間5年以内の一時払養老保険の差益、同保険期間の一時払損害保険の差益等は源泉分離課税の対象 |
譲渡所得 | 土地や建物、株式などの譲渡所得は原則として分離課税の対象営利目的の所得に関しては、事業所得および雑所得として総合課税対象となる。 |
雑所得 | 株式や先物取引による所得は総合課税の対象外 |
分離課税
分離課税とは、ほかの所得とは合算せずに所得額を計算・課税されるものです。分離課税には、以下2種類があります。
- 申告分離課税
- 源泉分離課税
申告分離課税は、所得申告を行う者自身が所得の計算・申告・納税を行います。一方、源泉分離課税は、所得を支払う側が税金を徴収し納税するものです。例えば利子所得の場合、金融機関側が住民税と所得税をあらかじめ徴収して、納税します。
個人事業を複数もつ場合の確定申告
個人事業を複数もつ場合、確定申告をどうすれば良いか分からないと感じる方もいるでしょう。個人事業が複数ある場合、事業所得のみなのか、分離課税対象の所得もあるかによって、確定申告の方法は異なります。
以下の項目で、複数の個人事業をもつ方の確定申告方法について解説しますので、参考にしてください。
事業所得など、総合課税対象の所得のみの場合
事業所得のみの場合、すべての所得を合算して確定申告すれば問題ありません。「収入金額等→事業→営業等」の欄に収入の合計金額を、「所得金額等→事業→営業等」の欄に所得の合計金額を記入しましょう。
分離課税の対象となる所得がある場合
分離課税の対象となる所得がある場合、確定申告書の第三表に、それぞれの所得金額を記載します。改めて、分離課税の対象となる所得を見てみましょう。
- 配当所得(一部、選択)
- 事業所得(一部)
- 利子所得(一部)
- 一時所得(一部)
- 譲渡所得(一部)
- 雑所得(一部)
- 山林所得(全て)
- 退職所得(全て)
個人事業が複数ある場合の決算書の作成方法
個人事業が複数ある場合の決算書についても、所得の種類によって扱いが異なります。なお、個人事業主における決算とは「損益計算書」「貸借対照表」「収支内訳書」「青色申告決算書」などを作成することです。
以下では、個人事業主の決算について、所得別で解説します。
事業所得のみの場合
事業所得のみの場合、全事業をひとつにまとめて決算して問題ありません。ただし、法人化した事業がある場合は、別途法人税の手続きを行う必要があります。
事業所得以外の所得がある場合
事業所得以外の所得がある場合、所得の種類ごとに決算書を作成します。収支内訳書と青色申告決算書は「一般用」「農業所得用」「不動産所得用」に分かれており、それぞれの所得ごとに決算をするのです。
例えば事業所得と不動産所得があわさっている場合は、「一般用」と「不動産所得用」にそれぞれの所得に関する情報を記載します。
個人事業が複数ある場合は「個人事業税」に注意!
個人事業を複数もっている場合、個人事業税の税率に注意しましょう。個人事業税とは、個人事業を営むにあたってかかる税金です。なお、以下の条件を満たす場合は非課税となります。
- 所得290万円未満の事業主
- 前3年で赤字の繰り越しがある事業主
- 法定業種以外の事業をしている方
- 被災事業用資産の損失の繰越控除や、譲渡損失の控除と繰越控除などによって、税額控除を受けられる事業主
個人事業税は、業種ごとに税率が決まっています。複数の個人事業をもっている場合は、それぞれの税率にあわせて納税しましょう。
区分 | 税率 | 事業の種類 |
第1種事業 | 5% | 物品販売業、運送取扱業、飲食店業、倉庫業、代理業、広告業、請負業、出版業、写真業、旅館業、運送業、案内業、商品取引業、保険業など |
第2種事業 | 4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
第3種事業-1 | 5% | 医業、司会業、弁理士業、税理士業、デザイン業、コンサルタント業、クリーニング業、理容業、美容業など |
第3種事業-2 | 3% | あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業 |
個人事業を複数もつ際のよくある質問
個人事業を複数もっている場合、以下のような疑問を持つ方が多くいるようです。
- 屋号を複数つけるのは問題ない?
- 事業用口座はわけるべき?
- 複数の個人事業がある場合、開業届はどうする?
以下で、よくある質問について回答していきます。
屋号を複数つけるのは問題ない?
事業ごとに屋号をつけるのは、まったく問題ありません。開業届を出す時点で複数事業ある場合は、それぞれの屋号を記載しましょう。
後から事業が増え、そのぶんの屋号もつけた場合は、開業届に新しい屋号を記入し、「その他参考事項」という欄に「屋号の追加登録」と記入して提出してください。
事業用口座はわけるべき?
事業用口座は、事業ごとにわけても、わけなくても問題ありません。それぞれのケースにおけるメリット・デメリットを見てみましょう。
事業用口座 | メリット | デメリット |
分けた場合 | 事業ごとに資金の流れを把握しやすい | 各口座から生活用口座に送金する場合、手数料が口座数分かかる |
分けなかった場合 | 入出金がしやすい | 事業ごとの資金の流れが分かりにくくなる |
メリット・デメリットをふまえて、自分にあったスタイルで管理をしましょう。
複数の個人事業がある場合、開業届はどうする?
複数の個人事業がある場合、開業届の職業欄には、メインの収入源となっている職業のみ記載すれば問題ありません。すべて同じくらいの収入であれば、収入の多い順で書けば問題ないでしょう。
メイン事業のみを記載するのだと不安という場合には、「事業の概要」という欄に、事業の詳細を記入してください。
なお、既に事業を営んでいる方が、新たに「不動産所得」「山林所得」などが生じる事業をスタートする場合は、追加で開業届を提出する必要があります。
まとめ
個人事業を複数もっていると、収入源を分散してリスクヘッジしていくことが可能です。また、さまざまな事業を経験することによって、より多様で効率的な事業を展開できるようになります。
一方で、所得の種類や業種によっては、確定申告や税金の計算などが複雑になるため注意が必要です。メリット・デメリットを把握したうえで、自分にあった事業形態を考えていきましょう。
- 個人事業を複数もつのは、法的にまったく問題ないよ!
- 収入を安定させやすい、柔軟なサービス展開が可能となるなど、複数事業をもつメリットは多くあるんだ
- ただし、個人事業税の税率が事業ごとに違ったり、確定申告が複雑になったりするので注意も必要だよ!
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