クラウドソーシングサイトを運営するランサーズが行った調査(*)によると、2020年以降はフリーランス人口が急激に増加しているようです。この記事をご覧の方の中にも「個人事業主として働きたい」と考えている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、退職後の資金繰りについて不安があり、退職できないと考えている方もいるでしょう。
そんな方に向けて、本記事では退職後に利用できる失業保険について、詳しく解説します。これからフリーランスとして働こうと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
〈*:ランサーズ「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版 より8ページ」〉
- 会社員からフリーランスになる場合には、失業保険を利用できる可能性があるよ!
- ただ、退職後すぐに開業届を出したり、職歴が短すぎたりすると保険金をもらえないかもしれないから、注意してね。
- フリーランスとして廃業した場合でも、開業後に失業手当の申請をしていれば、手当を受け取れる可能性があるよ!
目次
会社員からフリーランスになったら失業保険金を受け取れる!ただし…
会社員からフリーランスになった場合、失業保険金を受け取ることができます。ただし、失業保険金を受け取れるのは、開業届を出して個人事業主になる前までです。個人事業主になった後は、失業保険金を受け取れないので、注意しましょう。
また、失業手当の他にも、「再就職手当」をもらえる場合もあります。再就職手当は、早期に再就職をした場合にもらえる制度です。失業保険の支給日数を規定以上残しておくと支給されます。ただし、失業手当や再就職手当の本来の目的は「再就職の支援・促進」であり、個人事業主として働きたい方は基本的に対象外です。
受給するには、いくつかある条件を満たしたうえで、正しい手順で手続きをする必要があります。最初から個人事業主になるのを希望している場合は、条件が満たせるよう細心の注意を払う必要があります。
フリーランスが「失業手当(失業保険)」を受け取る条件は?
個人事業主(フリーランス)として働こうと考えている方が失業手当をもらうためには、以下の条件を満たしている必要があります。
- ハローワークで失業手当の申請をしている
- ハローワークに通い、再就職するための活動をしている
- 再就職できる意思・能力がある(病気や定年等で再就職が困難な場合は対象外)
- 開業届を出していない(開業届を出している場合は失業状態でないため、対象外)
離職日以前の2年間で、雇用者保険の被保険者期間が12か月以上
- 離職日以前の1年間で、雇用保険の被保険者期間が6カ月以上
※特定理由離職や会社都合退職については「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」を参照
上記のように、再就職する意思があって、かつ雇用保険の被保険者期間が条件を満たす場合、失業手当を受け取ることができます。被保険者期間の条件は、退職理由によって異なり、自己都合の場合は1年以上の被保険者期間が必要なので、注意しましょう。
また、自己都合以外の「特定理由離職者」や「会社都合退職」は、何らかの理由で仕事を辞めざるを得なくなった方や、会社が倒産して職を失った方を指します。特定理由離職者の範囲は細かな決まりがありますので、当てはまる可能性のある方は、ハローワークのHPをご覧ください。
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フリーランスが「再就職手当」を受け取る条件は?
開業届を出して個人事業主として働き始めたら、再就職手当を受け取れる可能性があります。再就職手当を受け取る際にも、細かな条件が設けられているので、受け取りを希望される方は事前にチェックしておきましょう。
- 手続き後の待機期間を満了してから、事業をスタートした
- 失業に関する手続きをしており、失業手当の支給残日数が3分の1以上残っている
- 元いた会社に復帰したり、関係のある企業に就職したりしていない
- 1年を超えて仕事をするのが決まっている
- 原則、雇用保険の被保険者になっている
- 過去3年以内に、再就職手当又は常用就職支度手当を利用していない
- 再就職手当の受給決定より前に、就職が決まっていた場合は対象外
- 再就職手当の支給決定日までに離職していない
〈参考:厚生労働省「再就職手当のご案内」〉
原則として失業後に会社へ就職できた場合に、再就職手当を受け取ることができます。最初から個人事業主として働くことを希望した場合は、再就職手当を受け取れない可能性もあることを覚えておきましょう。
フリーランスが失業手当を受け取る手順
フリーランスが失業手当と再就職手当を受け取る場合、ハローワークや税務署での手続きが必要です。手続きの順序を間違えたり、必要な申請を忘れたりすると、手当てを受け取れなくなるのでご注意ください。
なお、失業手当は「基本手当」が正式な名称で、雇用保険の一種です。ハローワークのホームページでは失業保険を「基本手当」、失業手当や再就職手当を含む就職支援制度を「雇用保険」と表記しています。今回は「失業手当」に表記を統一しますが、参考ページを見る際には名称が違うことを覚えておくと良いでしょう。失業手当を受け取る手順は次のようになります。
- ハローワークで失業手当の申請をする
- 雇用保険説明会に出席する
- ハローワークで求職活動を行う
- 開業に必要な書類を準備する
- 税務署で開業に関する書類を提出する
- ハローワークで再就職手当の申請をする
なお、再就職手当の受け取り方についても上記と同様になっています。以下でそれぞれの詳細について詳しく説明していきます。
①ハローワークで失業手当の申請をする
会社を退職したら、ハローワークで失業手当(基本手当)の申請を行いましょう。失業手当を申請する場合、まず「求職の申し込み」を行ったうえで、離職票を提出する必要があります。ハローワークに提出する離職証明書は、事前に本人が署名しておく必要がありますので、離職証明書の取り扱いについて離職前に会社で確認しておいてください。
②雇用保険説明会に出席する
失業手当の申請をしたら、雇用保険説明会に出席しましょう。雇用保険説明会とは、失業手当(雇用保険)を受給する方に向けた説明会のことです。失業手当の受給資格が確認されたら、説明会日時のお知らせが届きますので、忘れずに参加してください。雇用保険説明会に参加し、失業認定日に再度ハローワークへ行くと、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が付与されます。
③ハローワークで求職活動を行う
失業手当を受け取る場合は、給付期間中に月2回の求職活動を行いましょう。求職活動を行っていないと、再就職する意思がないと見なされ、失業手当の給付が延期・停止される原因になります。個人事業主として働くことを検討されている方でも、魅力的な就職先が見つかるかもしれませんので、前向きに求職活動を行ってください。
④開業に必要な書類を準備する
失業手当の受給が決定し、個人事業主として働く意思がある場合は、開業届を準備しましょう。開業に際して提出が必要な書類は、主に以下の2つです。
- 開業届
- (必要な方は)青色申告承認申請書
青色申告承認申請書は、「青色確定申告」を利用したい方は提出する必要があります。上記2つの書類は国税庁のホームページでダウンロードできるほか、最寄りの税務署で記入することも可能です。記入に際して不安な点があれば、税務署で相談したうえで書類を作成すると良いでしょう。
⑤税務署で開業に関する書類を提出する
開業届や確定申告に関する書類が準備できたら、最寄りの税務署に提出しましょう。開業に関する書類を提出する場合は、以下のものを持参してください。
- 開業届や青色申告承認申請書(当日記入も可能)
- マイナンバーカードや個人番号通知カードなど、マイナンバーの分かるもの
- 本人確認書類(運転免許証やパスポートなど、マイナンバーがあれば不要)
- 印鑑(書類作成に際しては不要、訂正印として利用する可能性あり)
なお、税務署は平日でも30分〜1時間程度待つ場合があり、書類の確認にも時間がかかります。書類提出をする際には、余裕をもって予定を立てておきましょう。
⑤ハローワークで再就職手当の申請をする
開業に関する手続きが完了したら、ハローワークで開業の報告を行いましょう。ハローワークへの報告は、事業を開始してから1か月以内に行ってください。報告をすると、ハローワークから「再就職手当の申請書類」が届きます。再就職手当に関する申請書類を送って、申請が受理されれば、手当を受け取ることができます。
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失業手当はいくらもらえる?計算方法や上限金額を解説!
前述した手続きを行えば、失業手当や再就職手当を受け取ることができます。では、実際に受け取れる手当の金額はどのくらいなのでしょうか?受け取れる手当の金額は、前職の給与額や、開業するまでの日数などで異なります。以下の内容を参考にして、自分が失業手当や再就職手当をいくら受け取れるのか、シミュレーションしてみてください。
フリーランスは「失業手当(失業保険)」をいくらもらえる?
退職してからフリーランスになるまでにもらえる「失業手当」ですが、もらえる金額は離職前の賃金をもとに計算します。計算方法は以下の通りです。
- 離職日の直前6か月間の賃金合計 ÷ 180 = 賃金日額
- 賃金日額 × 50〜80%(60〜64歳は45〜80%) = 失業手当額
※割合は、賃金日額が低いほど高くなる
上記のように、退職前6か月の賃金平均の約6〜7割程度が、失業手当額として振り込まれます。
なお、失業手当額は年齢ごとに上限金額が決まっていますので、ご自身がもらえる上限額を把握しておきましょう。
年齢 | 失業手当の上限金額 |
30歳未満 | 6,835円 |
30歳以上45歳未満 | 7,595円 |
45歳以上60歳未満 | 8,355円 |
60歳以上65歳未満 | 7,177円 |
(令和4年8月1日時点)
〈引用:ハローワーク「基本手当について」〉
なお、失業手当の上限額は変動しますので、最新の金額はハローワークのホームページをご確認ください。
フリーランスは「再就職手当」をいくらもらえる?
フリーランスが再就職手当を受け取る場合、金額は失業手当額や失業手当残日数を用いて計算します。
【再就職手当の金額】
- 失業手当の金額 × 失業手当の支給残額 × 60% = 再就職手当の支給金額
- 失業手当の金額 × 失業手当の支給残額 × 70% = 再就職手当の支給金額
【例:失業手当額7,000円で、残日数が3分の2以上(100日)の場合】
7,000 × 100 × 70% = 490,000円
上記のように、失業手当の残日数が3分の2以上ある場合は、再就職手当の支給金額が大きくなります。残日数が3分の2以上あると再就職手当額が大きくなるのは、早期に再就職することを促進するためです。求職活動もしたうえでフリーランスになる意思が変わらないのであれば、早期に開業手続きをしたほうが良いでしょう。
失業保険・再就職手当を受け取る際の注意点
失業保険・再就職手当を受け取る際には、いくつかの注意点があります。ここでは、失業保険・再就職手当を受け取る際にフリーランスが注意すべきことについて解説していきます。
「副業」に気を付ける
退職後に再就職手当を受け取りたい場合、注意しなくてはならないのが「副業」です。会社在籍中にフリーランスとして副業をしていて、退職後も続けていた場合、失業という扱いにはなりません。会社在籍時からフリーランスとして仕事をしていた場合は、失業手当や再就職手当が受け取れない可能性が高いため、注意しましょう。
申請してすぐに振り込まれるわけではない
失業手当や再就職手当は、申請してから振り込まれるまでに一定の時間を要します。申請して数日で振り込まれるものではないので、失業手当があるからといって貯金をせず退職すると、生活が成り立たなくなる可能性があります。
以下で、失業手当や再就職手当の振り込み時期について解説しますので、これから退職する方は、何ヶ月分の貯金をしておけば良いかの目安としてお役立てください。
失業手当の振り込み時期
失業手当の振り込み時期は、退職理由によって異なります。
- 自己都合退職:2か月の給付制限後、認定日の約1週間後
- 会社都合での退職:認定日から約1週間後
自己都合退職の場合や、ハローワークからの職業紹介・職業訓練を理由なく拒否した場合は、1〜2か月の給付制限がかかります。自己都合で退職する場合は、失業手当が振り込まれるまでに2〜3か月かかると考えておきましょう。
なお、失業手当の認定日は4週間に1回となっています。タイミングによっては、会社都合退職でも振り込みが1か月程度かかる場合がありますので、ご注意ください。
再就職手当の振り込み時期
再就職手当は、ハローワークに申請をしてから約1か月程度で振り込まれます。なお、再就職手当を受け取る際には、前述の通り「開業の報告」と「書類の郵送」が必要です。
書類を郵送してから約1週間程度で再就職手当は振り込まれますので、書類が届いたら早めに返送しましょう。
開業届の提出のタイミングに気を付ける
失業手当や再就職手当を受け取る場合には、開業届の提出タイミングに気を付けましょう。退職するタイミングで開業届を出すと、失業手当の対象にはならなくなってしまいます。
再就職手当を受け取る際は失業手当のもらい過ぎに注意!
失業手当をもらい過ぎてしまうと、再就職手当の支給条件である「失業手当残日数が3分の1以上」が満たせません。
このように、事業をスタートするタイミングや手当ての利用方法によって、支援制度を最大限に活用できなくなるケースは十分考えられます。利用条件をしっかりと確認して、制度を有効活用できるようにしましょう。
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失業手当(失業保険)や再就職手当を受給できない人
ここまでご覧になった方の中で、「自分は受け取れるのかな?」と疑問に思っている方はいらっしゃいませんか?特に、失業手当や再就職手当は、再就職の支援・促進が主な目的なので、個人事業主として働く意思のある方だと、利用できるのか疑問に感じるでしょう。
制度の利用に関して不安や疑問のある方に向けて、いくつかのケースを例に、失業手当や再就職手当を利用できるかどうか解説していきます。
会社を退職し、すぐ開業届を出して個人事業主(フリーランス)になった場合
会社を退職してから、すぐに開業届を提出した場合、失業手当や再就職手当は受給できません。失業した方の再就職を支援したり、再就職を促進するための制度なので、個人事業主としてすぐ働ける方は対象外なのです。失業手当を受け取りたい場合は、すぐに開業届を出さず、まずは通常の求職活動を行うようにしましょう。
会社をクビになり、開業届を出さずフリーランスとして働いた場合
会社をクビになってしまっても、フリーランスとして働ける方は、制度の対象外です。開業届を出している・出していないに関わらず、仕事がある方の場合は、失業者として認定されません。あくまで仕事が完全に無くなってしまった方のための制度なので、フリーランスとして働いた場合は、制度を利用しないようにしましょう。
日雇いや、1年未満の派遣で働いていた場合
日雇いとして働いていた方や、1年未満の派遣で働いていた方は、失業手当や再就職手当の対象になりません。失業手当は、原則として1年以上にわたって雇用者保険の被保険者期間がなくてはならないからです。ただし、条件を満たす場合であれば、パートやアルバイトでも失業手当や再就職手当を利用できる可能性があります。あくまで働いていた期間が短すぎると利用できないのであって、パート・派遣・アルバイトでも利用可能です。
フリーランスとして働いていて、廃業した場合は受給できる?
原則として、フリーランスが休業・廃業した場合に利用できる国の保険制度はありません。しかし、2022年7月から特例ができて、再就職支援を目的とした失業保険(失業手当)をフリーランスでも利用できるようになりました。条件は、以下の通りです。
- 離職日の翌日以降に、事業を開始した方や、事業に専念した方、もしくは事業の準備に専念し始めた方
- 事業を開始した日(もしくは事業に専念した日、事業準備に専念し始めた日)の翌日から2か月以内に申請をした方
- 雇用保険の被保険者だった方で、退職後に個人事業を開始し、廃業して再就職する方
〈参考:厚生労働省「離職後に事業を開始等した方は 雇用保険受給期間の特例を申請できます」〉
つまり、就職していた方が退職後にフリーランスになったものの、廃業や休業することになって再就職する場合に、失業手当が利用できるのです。特例を利用するためには、事業開始から2か月以内に申請を済ませておく必要がありますのでご注意ください。
失業手当(失業保険)を受給中に、開業届を提出した場合
失業手当を受給中に開業届を提出した場合、タイミングによっては再就職手当を受け取れる可能性があります。ポイントは、失業手当の受給残日数が3分の1以上残っているかどうかです。残日数が3分の1以上残っている状態で開業した場合は、再就職手当を受け取ることができます。一方、残日数が3分の1以下の場合は、再就職手当の受給条件を満たせませんので、手当を受け取ることができません。
会社は退職したが、副業は継続していた場合
会社を退職したものの、副業でやっていた仕事を継続していた場合は、失業手当や再就職手当の対象になりません。副業を継続していた場合も、完全な失業期間がないためです。完全に仕事が無くなった場合で、仕事がなくなるまで雇用者保険に加入していた場合に利用できる制度なので、フリーランスとしての仕事がある場合は原則対象外と考えましょう。
まとめ
会社員からフリーランスになる場合は、失業手当(失業保険)や再就職手当を受給できます。失業手当や再就職手当を利用するためには、受給申請や求職活動が必要です。申請を忘れたり、手順を間違えたりすると保険を利用できない場合がありますので、本記事の内容をしっかりと確認し、制度を利用してください。また、フリーランスとして廃業した場合でも、開業後に失業手当の申請をしていれば、手当を受け取れる可能性があります。事前に申請しているかが非常に重要なので、今後退職される方は、失業手当についてしっかりと確認しておいてください。
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