個人事業主として働く場合、会社に雇用されていた時代とは社会保険制度への加入状況が変わります。雇用保険も同様で、個人事業主になることで加入の可否や利用方法が変化する点に注意が必要です。
本記事では個人事業主が雇用保険に加入できるのかを、加入におけるメリット・デメリットや注意点とともに解説します。
- 個人事業主は原則として、雇用保険には加入できないよ!
- 例外として、従業員を雇用する場合には加入必須になって、従業員と信頼関係を持って働けるメリットなどのあるよ!
- 他にも個人事業主が利用できる保険はあるから要チェックだね!
目次
雇用保険の概要について
まずは「雇用保険」という制度の概要について、以下で詳細を解説します。
失業した際の生活を安定化させるための保険制度
雇用保険とは、労働者が失業した際に生活が困窮しないように、一定の給付金を支給する制度を指します。生活の安定化と同時に、次の仕事をみつけるための就職支援にもなる点が特徴です。
例えば雇用保険に加入していれば、失業後に特定の技能を習得するための「職業教育訓練」を受けることも可能です。職業教育訓練を経て新しいスキル・技術を学び、再就職の準備をするケースも多いです。
個人事業主は雇用保険への加入が可能?
給付金の支給や職業教育訓練への参加など、多くのメリットを持つ雇用保険ですが、個人事業主でも加入が可能なのでしょうか。
個人事業主は原則として雇用保険に加入できない
結論からいえば、個人事業主は原則として雇用保険に加入できません。雇用保険は企業に雇われている従業員に向けた保険制度となるため、個人で事業をしている個人事業主は対象外となります。加入そのものが不可能なため、仮に事業が上手くいかずに廃業となっても、個人事業主は雇用保険の給付金を受け取ることができません。
従業員を雇用する場合には雇用保険への加入義務がある
個人事業主として従業員を雇用する場合には、雇用保険への加入義務があります。具体的には「週の所定労働時間が20時間以上」「雇用見込み日数が31日以上」の従業員がいる場合、雇用保険への加入が必須です。また、平成29年からは雇用保険の対象が拡大し、雇用保険に加入していた65歳以上の従業員も被保険者となっています。
雇用保険を除いた社会保険の種類
雇用保険以外にも、日本には人々の生活を支えるさまざまな「社会保険」があります。以下では、社会保険の種類や特徴について解説します。
健康保険について
健康保険とは、医療サービスを受けるための保険制度で、「医療保険制度」とも呼ばれます。健康保険への加入は義務でありとなり、個人事業主も「国民健康保険」を利用することになります。
年金保険について
年金保険とは、高齢者に支給する年金の財源となる保険制度のことです。「厚生年金」と「国民年金」の2種類があり、個人事業主は国民年金に加入して、第1号被保険者(自営業者、農業者、学生、配偶者など)として保険料を納めることになります。
介護保険について
40歳以上の国民に加入義務があり、個人事業主も年齢次第で加入が必須となる保険です。保険料は所得水準によって決定し、40歳以上65歳未満の加入者である第2号被保険者(企業に雇用されている従業員や公務員など)は、医療保険と一括で徴収されるのが特徴です。
労災保険について
労災保険とは、仕事中や通勤時に災害・事故などに遭った際に、医療費や休業中の賃金を補償する保険制度です。保険料は全額を企業および事業主が負担するため、金銭的な問題に悩まされず療養に専念できます。雇用保険と同様に労働者を対象とした保険となるため、個人事業主は加入できない点に注意が必要です。
雇用保険への加入方法
従業員を雇用する個人事業主は、雇用保険に加入する必要があります。以下では、雇用保険に加入するための方法について解説します。
労働基準監督署とハローワークに必要書類を提出する
個人事業主は従業員を雇用したら、10日以内に労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出します。同時に、50日以内に「概算保険料申告書」を労働基準監督署、労働局・金融機関のいずれかに提出する必要があります。
はじめて労働者を雇用する場合には、雇用関係を締結してから10日以内にハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」の提出も必要です。その後、雇用した月の翌月の10日までに、雇用保険の対象者ごとに「被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。
労働者が辞めた場合も雇用保険に関する手続きが必要
雇用していた従業員が辞めた場合、辞めた翌日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」をハローワークに提出しなければなりません。上記書類を提出することで、離職票が辞めた労働者に交付されます。離職票は、雇用保険の失業給付の受け取りや、ハローワークで求職の申請をする際に必要となるため、忘れずに対応するようにしましょう。
個人事業主が支払う保険料について
雇用保険の保険料は、雇用主である個人事業主と雇用される側の労働者の両方が負担します。保険料は労働者に支払う賃金の総額を基に、保険料率をかけて計算されます。雇用保険料率は毎年変動するため、厚生労働省のホームページで数値を確認する必要があります。
個人事業主が雇用保険に加入するメリット
個人事業主が雇用保険に加入することには、さまざまなメリットがあります。事業を継続させていく上でどのようなメリットがあるのかを、以下で解説します。
雇用する従業員に安心感を与えられる
きちんと雇用保険への加入手続きを実施することで、一緒に働く従業員に安心感を与えられます。従業員のことを考えてくれている個人事業主だとアピールできるため、信頼関係を構築しやすいのがメリットの1つです。雇用保険をはじめとした社会保険への理解がないと、従業員に不安を与えることになり、継続した雇用が難しくなるでしょう。
雇用に関係する助成金の給付対象になる
雇用保険に加入することで、個人事業主は雇用関係の助成金を受け取れる可能性があります。例えば「特定求職者雇用開発助成金」では、雇用した従業員の属性に合わせた助成金が支給されます。どのような助成金の対象になるのかを事前に確認しておくことで、個人事業主も雇用保険のメリットを得られます。
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個人事業主が雇用保険に加入するデメリット
個人事業主が雇用保険に加入することには、いくつかのデメリットもあります。以下では、把握しておくべきデメリットを解説します。
雇用保険料を負担しなければならない
雇用保険に加入する場合、個人事業主も雇用した労働者と一緒に保険料を支払うことになります。支払いの割合は雇用する側の方が大きいため、事業継続を妨げるコストになる可能性がある点はデメリットです。従業員を雇う際には、賃金だけでなく雇用保険などの社会保険料の負担も考慮する必要があります。
手続きに時間がかかる
個人事業主は、自らの手で従業員の雇用保険への加入・脱退手続きを行う必要があります。手続きには多少なりとも時間を取られてしまうため、本業の仕事に支障が出るケースも懸念されます。事前に基本的な手続きの方法と必要書類を確認し、スムーズに加入・脱退申請ができるように備えましょう。
個人事業主が雇用保険を利用する際の注意点
個人事業主が雇用保険の制度を利用する際には、注意すべきポイントがあります。以下を参考に、雇用保険の利用時における注意点をチェックしておきましょう。
雇用保険料や社会保険の支払いは経費にできない
雇用保険料やそのほかの社会保険料の支払いは、経費として計上できません。事業の経営に必要な出費だとしても、経費に該当しない点は注意が必要です。その代わり、社会保険料の支払金額は確定申告の際に「社会保険控除」として申請することで、所得控除が受けられます。
雇用保険料の支払い忘れに注意
従業員の雇用保険料は、加入後50日以内に支払う必要があります。期日を過ぎると延滞した期間に応じた遅延金の支払いも必要になるため、コストが大きくなります。また、従業員を雇用しているにも関わらず、雇用保険の加入を怠った場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。
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まとめ
個人事業主は、自分自身で雇用保険に加入することはできません。しかし、従業員を雇用する場合には加入が必須となるため、雇用保険の基本や加入・脱退方法などは、しっかりと理解しておく必要があるでしょう。
この機会に個人事業主が知るべき雇用保険の概要と、加入によるメリット・デメリットを把握し、事業に応用できるように備えてください。
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